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転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長


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36話 戦国デート

「全く、まさかここに来るなんてね。まあアンタの想像力じゃあこれが限界か」


「そんなこと言ってもこの辺りだとここが1番よくないか? 葵もずっと笠間にいたんだからここは見飽きたってほどじゃないだろ?」


「ま、まあ確かにそうだけどさ……」


 後日、俺は葵と共にデートをしに出かけていた。


 その場所というのは霞ヶ浦、小田家にとって富を生むことでお馴染みの場所であるが、同時に見渡す限りの湖が広がり、景色を楽しむこともできる場所である。


 霞ヶ浦へ目を向けると湖畔には背丈を超える葦が群れをなし、風が吹くたびに白い穂を揺らしていた。

 

 水面には漁師達の小舟が浮かび、網を引く音が静かに響く。


 遠くでは鷺が羽を広げ、朝靄の中へと飛び去っていった。


 うん、やはり思った通り風情のある場所だ。


 デートに選ぶには問題ない場所だとおもうのだが、葵的には不満なのだろうか。


「俺、湖や海が好きでさ。こうして眺めていると心が癒されるっていうか……だから霞ヶ浦はそういう意味でも好きだな」


「私も湖は好きだよ、魚が取れるからね!」


 ははっ、葵ならそう言うと思ったよ。


 葵はやっぱり花より団子な女の子だな。


「じゃ、まずは喋りながら釣りでもするか? せっかく竿と餌も持ってきたしな」


「いいじゃんいいじゃん! 私ここで釣りするの初めてだしいいかも!」


 おお、食いつきがいいな。


 明らかにテンションが上がってる。


 現代だと彼女を釣りに誘ったらゲンナリされること間違いなしだがここは戦国、釣りでも十分にデートとして成立するようである。


 ということで俺たちは早速釣りを行うこととなった。


 葵は元々釣りの心得があったのか特に教える必要もなく、竿を渡すと手慣れた手つきで餌を付け、すぐに釣りを開始した。


 俺も葵に続いて釣り糸を垂らし、釣りを開始する。


「そういや市場で見たけどここって海の魚も川の魚も釣れるんだよね? 海が近いからなの?」


「そうだな……確かに海が近いのは関係してるよ。ここは川の水と海の水が混じり合った湖でな、だから川魚も海魚も両方取れるんだ。ここみたいな湖のことを汽水湖って言うんだ」


「なるほどねぇ、だから色んな魚が釣れるわけか。ふふふっ、これは楽しみだねぇ」


「ちなみに葵はどの魚を釣りたいんだ?」


「やっぱり鰻でしょ! あれが1番美味いんだから! 食卓に並ぶと未だに感動しちゃうよ!」


 鰻か、この戦国の世でも高級魚だが現代でも高級な魚だ。


 しかし、その分最高に美味いというのは皆が知っているという事実だろう。


 特に汽水湖である戦国時代の霞ヶ浦は栄養豊富で綺麗なため、鰻もよく育ち油が乗りまくって非常にジューシーで美味いのである。


 俺も数回ほど食べたことがあり、それはもう現代の高級な鰻と比べても引けを取らない美味さであった。


 ここで釣ることができたら間違いなく大当たりだと言えるだろう。


「あとはスズキとかボラかな。どっちも油が乗ってて美味しいんだよね〜」


 スズキとボラね、どうやら葵は油が乗ってて味が濃い魚が好きなようだ。


 スズキもボラも、現代では食卓に並ぶ魚としてはどちらもあまり馴染みがない。


 しかし、この戦国時代においてはどちらも高級魚なのである。


 まずスズキは若魚は味が淡白だが、大型のものになると油が乗って美味いのである。


 そしてボラも現代では臭いイメージがあり、あまり人気がないものの、この綺麗な汽水域で取れるボラは臭みがなく美味いのだ。


 これらも釣れたら十分に当たりだと言えるだろう。


「あとはエビとかカニもいいねぇ。ふふっ、ここは考えれば考えるほど美味しい魚が沢山いるね!」


「そうだな。そういう点でも俺達は立地に恵まれていると言えるかもな」


「だねぇ。ふふふっ、早く釣れないかな〜! 楽しみ〜!」


 全く、ここに来たばかりの時は文句言ってたのにすっかりニコニコしちゃって。


 まあ喜んでくれてなによりだけどな。


 俺は葵の表情を見て微笑みながら、釣りを続ける。


 しかしそれから時間が経っても、一向に釣れる様子はない。


「ちょっとー、釣れないんだけど!」


「まあ釣りなんてこんなもんさ。お前もよく分かってるだろ?」


「そうだけどさー……ああもう、この時間暇なんだよね。政貞、何か面白い話してよ」


「面白い話をしろって簡単に言うけど、そういうのが1番困るんだぞ? まあそうだな……それじゃあ海魚の話でもするか」


「おおいいじゃん! そういう話が聞きたかったの!」


 やっぱりな、食い物の話をしておけば食いつきが良くなると思ったよ。


「ははっ。葵はやっぱり脂の乗った魚が好きだよな」


「うん! やっぱり海にも色々いるんでしょ?」


「ああ。マグロとか、ブリなんかがそうだな。といっても、俺も生まれてこの方食ったことはないがな」


「まあそうだよね……鹿島の奴らは毎日食ってたりするんだろうなぁ。政貞、鹿島を切り取って私にも海魚食べさせてよ」


「簡単に言ってくれるなお前は……まあ今は無理だが、内政が落ち着いたら切り取るつもりさ。早くても一年後だろうけどな」


 戦になることを考えると、領内の掌握が半端な状態でやるべきじゃないからな。


 当面は内政を行い、力をつけるべきだろう。


 佐竹はともかく、島崎と鹿島ではこちらを攻めることは難しいからな。


 佐竹と組みでもしない限り、こちらを攻めてくることはないだろう。


 といってもじっくりと内政する時間を与えてくれるほど周りも甘くない。


 いずれはきっと攻めてくるだろう。


 だから内政はある程度のところで妥協しつつ、鹿島島崎についてはこちらから先手を打つつもりだ。


 早ければ一年後になるかな。


 いざ戦になればできることは限られてくる、今のうちにやれることはやっておこう。


「ふふっ、その時を楽しみにしてるよ、旦那様?」


「まっ、大船に乗ったつもりで期待しといてくれ」


 俺は互いに軽口を叩きながら、笑い合った。


 その時だ。


「おっ、かかった!」


「私も!」


 何と同時に竿に魚が引っかかったのである。


 俺達は勢いよく竿を引き上げる。


 すると———。


 バシャアッ!!


 水飛沫を上げながら、二匹の魚が宙を舞った。


「おおっ!」


「やったぁ!!」


 俺と葵は同時に歓声を上げる。


 だが次の瞬間。


「……ん?」


「……あれ?」


 互いに釣り上げた魚を見て、揃って首を傾げた。


 俺の針に掛かっていたのは拳ほどの小さなボラ。


 そして葵の方は——。


「ちっちゃ!?」


 手の平ほどしかないスズキの幼魚だった。


「ぶははははっ!」


 俺は思わず吹き出した。


「アンタ、何笑ってんのさ!!」


「いやだってお前、さっきまで『鰻がいい』『スズキがいい』って言ってたのに、その結果がこれだからさ! ははははっ!」


「アンタだって大差ないでしょ!」


 葵は頬を膨らませながら小魚を掲げる。


 だがその姿が妙に可笑しくて、俺は腹を抱えて笑ってしまった。


「むぅ……」


 葵は不満そうに唸ると、小魚をじっと見つめた。


「これ食べられるかな?」


「食べられなくはないが、逃がしてやった方がいいだろ」


「だよねぇ」


 葵は名残惜しそうにしながらも、そっと魚を湖へ戻した。


 小魚は尾を振ると、あっという間に水の中へ消えていく。


「大きくなれよー」


「何だ、お前優しいじゃないか」


「当たり前でしょ。大きく育った方が後で美味しいんだから」


「結局そこか」


「まあね〜」


 俺達は顔を見合わせると同時に吹き出した。


 その後もしばらく釣りを続けた。


 風は穏やかで、湖面はきらきらと陽光を反射している。


 遠くでは漁師達の舟が行き交い、時折水鳥の鳴き声が聞こえてきた。


 何ということのない時間。


 だが、不思議と心地良かった。


 戦のことも、領地のことも、佐竹や鹿島のことも今だけは忘れられる気がした。


 そんな穏やかな時間が流れていた時だった。


「……政貞」


 ふいに、葵が小さな声で呼んだ。


「ん?」


「私さ」


 葵は湖を見つめたまま続ける。


「今日のアンタが楽しそうで良かったよ」


「え?」


 思わぬ言葉に俺は目を瞬かせた。


「最初会った頃のアンタって、ずっと何かに追われてるみたいだったじゃん」


「そうだったか?」


「そうだったよ」


 葵は即答した。


「笑っててもどこか無理してる感じだったし。いつも何か考えてた」


 図星だった。


 前世の知識に歴史の流れ、家の未来と戦のこと。


 考えなければならないことは山ほどあった。


 そして事実俺は働き詰めであり、ひたすら動き考え、休むことなどほとんどなかった



「でも最近は違う」


 葵は俺を見た。


「水車の話してる時とか、魚の話してる時とか、すごく楽しそうだった」


「……そうか」


「うん」


 そして少しだけ笑う。


「だからさ」


 風が吹く。


 葦が揺れる。


 湖面に小さな波が立つ。


「たまにはこうして休みなよ」


 葵はそう言った。


「アンタ、頑張りすぎるから」


 その言葉は妙に胸に響いた。


 家臣達は俺を頼る。


 民も期待している。


 だから俺は走り続けなければならない。


 そう思っていた。


 だが。


「そうだな」


 俺は静かに笑った。


「たまには休むか」


「うん、それがいいよ」


 葵も満足そうに頷く。


 そして次の瞬間。


 グゥゥゥゥゥゥゥゥ——。


 盛大な音が響いた。


「……」


「……」


 俺達は無言で葵の腹を見た。


「空耳だよ」


「いや聞こえたんだが」


「聞かなかったことにしなさい」


「無理だろ」


「無理でもするの!」


 顔を真っ赤にして怒鳴る葵。


 俺は必死に笑いを堪えた。


「そ、そうだな……ちょうど昼時だし」


「そうそう! 昼時だから! お腹空くの普通だから!」


 必死に言い訳する葵。


 その様子がおかしくて、結局俺は吹き出してしまった。


「あははははっ!」


「笑うなー!!」


 葵が小石を投げてくる。


 俺は慌てて避けた。


 霞ヶ浦の風が吹き抜ける。


 空は高く、青かった。


 戦国乱世のただ中。


 いつ戦が起きてもおかしくない時代。


 だがこの日だけは。


 俺達はただの夫婦として笑い合っていたのであった。

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