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転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長


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34話 水車を作ろうその2

「おいおい、俺は反対だぜ! ただでさえ農作業で忙しいのに何でそんな面倒な物まで作らないといけないんだ!」


 しかしその時、1人の青年が反対の声を上げた。


 その表情には明らかに俺への不満が剥き出しとなっていた。


 それはまあ、当然といえば当然だ。


 俺はこれから、彼らを楽にさせるためとはいえ更なる重労働を敷こうとしているのだから。


 やはり、人とは理屈だけでは動かない生き物である。


 しかし、こちらにも言い分はある。


 俺は彼と話し合おうと口を開く。


「こんのバカ息子がッ!!」


 しかし、それより早く村長が動きその鉄拳を息子だという青年へと叩きつけた。


「い……ってぇ!!」


 うわぁ、本当に痛そう。


 たんこぶできちゃってるよ、しかもだいぶ大きな。


 見るだけで痛そうなそれに、思わず目を背けそうになってしまう。


 そして村長は息子の頭を鷲掴みにするとそれを地面に叩きつけ、共に俺へと土下座をしてきた。


「申し訳ございませぬ!! 2度と政貞様にこのような口を聞かぬよう厳しく言いつけますので、どうかお許しを……!!」


「いいや、構わない。それに正直に言うと、皆の中にもこの仕事に参加することに不満を持っている者はいるだろう?」


 俺がそう言うと、何人かの百姓は目を背ける。


 まあそりゃあ当然だ、俺も分かっていたことである。


 だからこそ、こちらとしてもしっかり報酬を用意している。


「やはりな。安心してくれ、精米機作りに参加した者は働きに応じて禄を出す。つまり、働けば精米機の完成にもつながるし、銭も得られるわけだ」


 そう言った途端、百姓達の顔色が変わる。


「何と、銭がもらえるのか……?」


「それなら参加してもいいんじゃないか? オラ、一度魚ってやつを食べてみたかったんだ!」


「はあ? そんな美味い話があるかよ、俺は参加しねえぞ!」


「勝手にしなさいな。アタシは参加するけどね」


 百姓達の言葉と表情は肯定的なものに変わっていく。


 しかし、不満の色が消えない者もいる。


「だがそれでもやりたくない者もいるだろう。無理強いはしない、参加したくない者はいつも通りの農作業だけで構わない。参加者は他から集めることとしよう」


 更にそう言うと、不満の表情を見せていたものもほっと安堵したようであった。


 よし、これで不満は取り除けたことだろう。


「それじゃあ今日は解散するが、木材が集まる目処がつき次第、こちらから作業開始の日程を伝える。それじゃあ皆、当日からはよろしく頼むぞ!」


「「おう!!」」


 そしてその日は皆と別れ、村を後にするのだった。




 そしてそれから2週間後、建築資材を全て用意し運び終えたこともあり、俺達は遂に水力精米機の開発を開始するのだった。


「よし、それでは水力精米機の建築を始める。皆、よろしく頼むぞ」


「「ははっ!!」」


 今回水力精米機作りに参加するのは俺と百姓達を加えて10人の建築士と菅谷隊である。


 建築士の者達には事前に設計図と作成手順を頭に叩き込んでもらっており、彼らに監督役と指示役を任せ作成を取り行う。


 そして、ここで水力精米機が完成した暁には2つ、3つと追加の作成を任せ経験を積ませ、彼らに任せておけば問題ないというところまで成長してもらうつもりである。


 まあとりあえず、それにはこの一つ目を完成させないことには始まらない。


 俺は気合いを入れて、皆と共に水力精米機作りを開始した。



 最初に行われたのは、川辺の整地であった。


「ここでございますか、政貞様」


「ああ、流れが安定しているからな。ここが一番いいだろう」


 水力精米機の心臓とも言える水車は、場所を間違えれば機能しない。


 流れが弱すぎても回らず、強すぎても壊れる。


 まさに自然と技術の境界にある装置だった。


「まずは土台だ。石を並べろ!」


 建築士の一人が声を上げる。


「その丸太はもっと深く埋めろ!」


「そこ、角度が違う! もう一度だ!」


 指示が飛び交い、村人達が動く。


 建築士達の指示は流石というべきか的確で、みるみるうちに形になっていく。


「政貞、これは完成が楽しみじゃのう!」


「そうですなぁ、小太郎様」


 俺は氏治の笑顔を見ながらそう頷く。


 そしてまた、百姓や建築士の顔も真剣ではあるが、同時にこの作業を楽しんでいるように見える。


 それも当然だろう、彼らはこれまでに存在しなかった未知の物を作り上げようとしているのだから。

 

 しかし、まだ誰も気づいていない。


 この仕組みが完成した時、彼らの生活が根本から変わることに。


 作業は丸一日続いた。


 

 そして、翌日を迎える。


「水車の枠、組み上がりました!」


「軸の石も据え終えました!」


 報告が次々と上がる。


 川の横に、巨大な木組みが立ち上がっていく。


 それはまだ未完成ながらも、確かに水車の形へとしあがっていた。


「よし……あとは羽だな」


 俺は設計図を見ながら呟く。


 水車の最重要部分、川の力を受ける板だ。


「政貞様、この板はどう取り付けるので?」


 建築士が尋ねる。


「少し角度をつけろ。真正面ではなく、流れを受け流すようにだ」


「……なるほど」


 理解した者が頷き、すぐに作業に移る。


 そのである。


「お、おい!」


 川下の方から声が上がる。


「流れが変わってるぞ!」


 一瞬、全員が固まった。


 水量が増えている。


 昨日まで穏やかだった川が、急に勢いを増していた。


「まずいぞ、このままだと土台が……!」


 建築士が焦る。


 だが俺はすぐに判断した。


「予定変更だ。支柱を一本追加しろ! 急げ!」


 村人達が一斉に動く。


 泥に足を取られながらも、丸太を運び、石を積む。


 現場は一気に戦場のような緊張感を帯びた。


「な、なぁ……政貞、こっ、これ……壊れぬか?」


 氏治様が不安げに尋ねる。


 百姓達がここまで苦労して作り上げたものが壊れないか危惧しているのだろう。


 俺はそんな氏治様に笑みを浮かべて答えた。


「大丈夫です。むしろ、好機と言えるでしょう」


「好機じゃと?」


「川の力が強いということは、それだけ効率が上がるということです」


 俺は水面を見る。


 濁流気味の川。


 だが、その力は圧倒的だった。


 水車の回転は、これまでと比べ物にならないほど増すことだろう。


「これなら……想定以上の出力が出る」


 自然の暴力を、技術に変える。


 それがこの装置の本質だからである。


 だからこそ、ここで壊れさせてしまうわけにはいかない。


 俺は百姓達に加わり、指示をしつつ補強作業を行うのだった。



 それからも、何度かアクシデントはあった。


「政貞様、素材が足りなくなりそうです!」


 時には素材不足が発覚し、急ぎまた素材を補充する羽目になったり。


「大雨じゃあ! これじゃあとても作業どころじゃないぞ!?」


 雨によって作業を中断せざるをえなくなったり。


「政貞、助け、ごぽぽぽぽっ!?」


「小太郎様!? 何で川に流されてるんですか!?」


 川に流された氏治様を助けたりとそれはもう色々とあった。


 だが、遂にその時は訪れた。



 1週間後、そこには俺が作ったミニチュアと全くそっくりの水車が川に建てられていた。


 そう、念願の水力精米器が遂に完成したのである。


「つ、遂に完成したなぁ……!!」


「本当におら達の手でこれを作ったんだよなぁ、何か感動するよ……」


 人々は口々に感想を述べ合い、感慨深げに自分達が作り上げた物を見上げる。


 だがしかし、感動するのはまだ早い。


 俺は皆の前に立ち、息を大きく吸った。


 そしで声を発する共に、皆に向かって大きく一礼した。


「皆の者! これまで本当にご苦労だった! 皆のおかげでこの水力精米機を作り出すことができた、本当に感謝している!」


「あ、頭を上げてくだせぇ! お侍様に頭を下げられちゃあかなわないでさぁ!」


「これは皆への感謝の証だ。これより水力精米機の動作を開始する。動作が無事に成功したらその時は改めて、皆のことを祝わせて欲しい! それでは水門、開いてくれ!」


 その瞬間、村人達の視線が一斉に水門へと向けられた。


 ごくり、と誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。


 完成した。


 確かに完成した。


 だが、本当に動くのか。


 本当に川の力だけで米を搗くことができるのか。


 誰もが固唾を飲んで見守っていた。


「開門!」


 建築士の号令と共に、水門がゆっくりと開かれる。


 ゴォォォォォォ――――ッ!!


 轟音と共に水が流れ込んだ。


 濁流が一気に水路へ流れ込み、水車へとぶつかる。


 だが――


 水車は、動かなかった。


「……」


「……」


「……おい」


 誰かが呟いた。


 空気が凍り付く。


 嫌な沈黙だった。


 俺の背中を冷たい汗が流れる。


 まさか、どこか計算を間違えたのか。


 軸か、羽か、歯車か。


 そんな考えが頭を駆け巡った。


 いや違う、そんなはずはない、それでは皆のこれまでの頑張りが台無しになる。


 俺は絶対に成功させるためにも、これまで念入りに作業中に確認を行いながら進行していた。


 だから、水車は必ず動くはずなのだ。


 俺は真っ直ぐに水車を見つめる。


 ただ動け、動けと思いながら。


 その、次の瞬間であった。


 ギギギ……


 小さな音が鳴った。


「……っ!」


 水車が僅かに揺れる。


 そして。


 ギィィィィッ――――!!


 巨大な水車がゆっくりと回り始めた。


「う、動いた……」


 誰かが呆然と呟く。


 水車は一回転、二回転、三回転。


 回転は徐々に速度を増していく。


 川の力を受けて、自然の力をそのまま飲み込みながら巨大な木の車輪は、力強く回り始めた。


「おおおおおっ!!」


 歓声が上がる。


 しかし、俺はまだ手を上げなかった。


「いや、まだだ!」


 そう、本番はここからだ。


「玄米を入れろ!」


「は、はい!」


 百姓達が慌てて桶を運ぶ。


 玄米が投入口へと流し込まれた。


 ゴリ……


 ゴリゴリ……


 石臼が回る。


 木製の歯車が噛み合う。


 軸が唸る。


 そして。


 下に置かれた桶へ白い粒が、ぱらぱらと落ち始めた。


「…………え」


 誰かが声を漏らす。


 最初は一粒。


 次に二粒。


 そして。


 ザラララララッ!!


 白米が滝のように流れ落ちた。


「し、白い……!」


「米だ!」


「精米されてるぞ!!」


「本当に精米されてる!!」


 村人達が桶へ群がる。


 震える手で米を掴む。


 何度も何度も見比べる。


 そして。


「お、おっかぁ……」


 一人の老婆が。


 白米を握り締めながら涙を流した。


「もう……あたしら石臼を回さなくていいんだねぇ……」


 その言葉に、場が静まり返った。


 誰も何も言わない。


 だが、皆が同じことを考えていた。


 毎日毎日、何時間も石臼を回し続けた。


 腕が上がらなくなるまで、腰が痛くなるまで。


 子供も女も老人も、皆でやってきた。


 それが今、川がそれを行っている。


 誰の力でもなく、ただ流れる水だけで。


「はは……」


 最初に笑ったのは、あの反対していた青年だった。


「ははは……」


 笑いが大きくなる。


「何だよこれ……」


 目尻に涙を浮かべながら。


「こんなの反則じゃねぇか……」


 彼は水車を見上げた。


「こんなのがあったら……爺さんも……母ちゃんも……」


 そこまで言って、彼の言葉が詰まる。


 村長が息子の肩を叩いた。


 青年は顔を背ける。


 だがその目からは涙が零れていた。


「……政貞様」


 村長が前へ出る。


 そして、ゆっくりと膝をついた。


「この老いぼれ、六十年近く生きて参りました」


 周囲の村人達も静かになる。


「ですが……このようなものを見たのは初めてでございます」


 村長は深々と頭を下げた。


「ありがとうございました」


 一人が頭を下げる。


 二人が頭を下げる。


 三人。


 四人。


 やがて。


 その場にいた全ての村人達が膝をついていた。


「ありがとうございました!」


「ありがとうございました!!」


「本当にありがとうございます!!」


 感謝の声が響く。


 俺は彼らの言葉を受けて、顔が熱くなるのを感じた。


 最初はただの出来心だった。


 この時代に日本に存在しない物をつくり、皆を驚かせたい。


 そんな仕事の気晴らしのつもりで始めたことだったのである。


 だからまさか、こんなに涙を流してまで喜んでくれるとは思わなくて、面食らってしまったのだ。


 まさか、自分のしたことがここまで人の心を動かすなんて思っていなかった。


 だからここまで感謝されて照れ臭く、彼らの顔を直視できなかったが、やがてゆっくりと彼らの顔に視線を向けると、俺の胸中には強い感情が湧き上がっていた。


 それは喜び。


 俺が知っている知識が、俺が前世で当たり前だと思っていた技術が誰かの人生を変えた。


 そのことに対する喜びであった。


 気付けば、俺も笑っていた。


「感謝するのは俺の方だ。これは皆の力がなければ作ることができなかった」


 俺は静かに口を開く。


「これは終わりじゃない」


 村人達が顔を上げる。


「始まりだ」


 水車は回り続けている。


 ゴォォォォォ――――ッ!!


 力強く、止まることなく。


「約束しよう、俺がいる限り皆をより豊かにしていくと」


 俺は水車を見上げた。


「だから皆、これからも俺達に力を貸してくれ!!」


 一瞬の静寂。


 そして。


「「おおおおおおおおおおおおおお!!!」」


 歓声が空を揺らした。


 川が流れる。


 水車が回る。


 白米が溢れる。


 その日。


 府中の片隅で生まれた一つの水車は。


 後に常陸全土を変える第一歩となるのであった。

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