33話 水車を作ろうその1
後日の早朝、家臣達と訓練を終えた俺は氏治と葵と共に、街を歩いていた。
「ははっ、今日はご機嫌じゃのう政貞」
「そりゃあそうですよ、今日は久々の休暇ですからね」
というのも、この数ヶ月間働き詰めだった俺に常陸介達が気を遣ってくれ、数日の間休暇を得ることができたのだ。
全く、彼らには頭が上がらない。
ということで、今日は久々に俺のやりたいことに取り組めるわけである。
「それで政貞様、今日はどこへ行くおつもりなんですか?」
「ふっふっふ、今日は農村へ向かうつもりだ」
「おお、百姓達のところに行くのか! いいのう、皆も喜ぶぞ!」
「でも農村に行くだけでそんな勿体ぶらないでしょう? そういうのいいんでさっさと教えてください」
葵のやつ、最近は外でも氏治様の前だと俺への態度を隠さなくなってきたなぁ。
と、そんな事はいいんだ。
「それはなぁ……ふふっ、農村に革命を起こしにいくのさ」
「だからそういうのいいんですって。ほら、さっさと教えないとぶつよ」
「……これを作る相談を百姓達にしに行きます」
俺は渋々、懐に入れていた紙を開けて見せる。
すると、氏治様と葵の視線は一斉にそれに向いた。
「これは……水車か?」
「それと設計図? なかなか複雑みたいですけど……」
「そう、これから作りにいくのは水車だ。しかし、ただの水車じゃない、百姓達の生活に革命を起こすであろう代物だ」
「ふーん……これが一体どうやって革命を起こすのか分からないですけど、農村に着くまでのお楽しみってわけですね」
「そういうことだ」
俺は葵のジトっとした視線から目を背けつつ、うんと頷く。
そして氏治様の方を見ると、キラキラとした目をこちらへと向けていた。
「政貞! お主またとんでもない物を百姓達と作るつもりじゃな!」
「そうです。では向かいましょう氏治様! 革命の日は近い!」
「おう、政貞よ!!」
「……今日何でこんなに元気なんだろうこの人」
俺達は意気揚々と農村へと向かうのだった。
「水力精米機……でございますか?」
「その通りだ」
農村へとやってきた俺は、早速村長と村の中でも地位の高い者を集めて説明を行おうとしていた。
「この道具は日の本で最も栄えている大内の家で用いられている技術だ」
勿論嘘である、いくら大内家といえどもこの時代にこんなオーバーテクノロジーは開発していない。
俺は農民達に噛み砕きながら、水力精米機の説明を行う。
「お主達は毎日、石臼を回しているな」
「へ、へい」
「俺がさっき説明した道具は、それを川にやらせる道具なのだ」
「か、川にでございますか?」
「そうだ」
「川が勝手に、石臼を回してくれるのでございますか?」
「その通りだ」
俺がそう言うと、反応は様々だった。
「そんなの……本当に作れるのか?」
「作れるわけないだろ、全くお上は百姓仕事をなめてらっしゃる」
「まあいいじゃねぇか、冗談にしちゃあ面白かっただろ? ははははっ!」
呆然とする者、呆れる者、笑う者、その反応は様々だった。
うんうん、いい反応だ。
まあそんなこと言われても到底信じられないよな。
だからこそ、俺はそれを作り実際に見せることでそれを信じさせてみせるのだ。
俺は背負った箱からある物を取り出す。
それを見た百姓と氏治様達は驚く。
それもそのはず、俺が取り出したのは先ほど見せた水力精米機のミニチュアだったのだから。
「すごいな……それお主が作ったのか!?」
「はい、工作は好きですからね。この日のために頑張って作りました」
「夜な夜な木をいじってると思ったらそんな物作ってたんだね……」
葵は呆れたようにそう呟く。
まるでプラモデル作りに没頭する夫に呆れる妻のようだ。
まあ葵が呆れるのも無理はない。
この数ヶ月間、俺は暇さえあればこれを作っていたのだ。
時間はかかったし大変だったが、同時に楽しかった。
これからは工作を趣味にするのも悪くないかもな。
と、それよりまずは説明をしないと。
俺はミニチュアを用いて実践しながら説明を行う。
「まずこの大きな車輪があるだろう? これを川に付けるとどうなる?」
「そうじゃのう……川の流れで回るんじゃないか?」
「その通りです、小太郎様!」
「おお、合ってたか! ははっ、ワシも中々やるもんじゃのう!」
氏治様の正解に皆が拍手をする。
その通り、この車輪を川の流れで回す。
それが水車の仕組みだ。
「で、この車輪が回転するとこっちの石臼がついた車輪も回転する。そして車輪の下に固定されてる石の上に玄米を置くとだな……」
実際に持ってきた玄米を置き、再び水車を動かすと上の石臼がぐるぐると回り、そのたびに石臼と玄米が擦れ、表面のぬかが取れていく。
そして俺は皆にぬかが取れた米を見せると、そこには精米された白い米があった。
「す、すげぇ……本当に川の力だけでぬかが取れちまった」
皆の驚く姿を見て、俺は心地よい気分に包まれていた。
そうそう、こういう反応が見たかったんだ。
そしてこの驚きがやがて喜びに昇華されていくのだと考えるともうたまらないな。
だが、最も肝心なのはここからである。
俺は気を引き締め、真剣な表情で話を続ける。
「俺作ろうとしているのはこの拡大版だ。しかし、これを作るには当然大掛かりな作業が必要だ。俺とここに呼べる建築士だけだと数も足りないだろう。そこで、皆にも手伝ってもらいたいんだ」
そう、これこそがここに来た目的だった。
当然、俺の力だけではこれだけの大掛かりな物を作る事は不可能。
これを作るには、皆の力が必要なのである。
俺は頭を下げて、皆に頼み込んだ。
俺は百姓達の反応を待つ。
最初は何も音がしなかった。
しかし、次第にざわざわしたかと思うと、一斉に笑い声が聞こえてきた。
「政貞様! そんなものこっちから頼みたいくらいですよ! どうか一緒に、この道具を作らせてください!」
「一体これが完成したらどうなるんじゃろうなぁ、楽しみじゃよ」
どうやら、彼らの心は最初から決まっていたらしい。
皆は既に俺と同じように、この道具に魅せられていたのだ。
だとすれば、やる事は一つだ。
「ありがとう皆! では俺達がこれからやる事はこの水力精米機を完成させる事だ! 気合いを入れていくぞ!」
「おおッ!!」
戦国時代に水力精米機を作り出す、その挑戦が今始まったのだった。




