3話 改革、その後
あれから数ヶ月が経過した。
親父は俺と話した次の日に政治様の元へと行き、農具や紙、漁業の話をして、それらを用いた領地改革の話をした。
無論、親父にした話を全てしたわけではない、当然あれら全てを実行できる人手など小田家にはないからだ。
なので、あれらの話の中から小出しにして政治様に進言したわけである。
結果から言うと、それらは政治様にも受け入れられ、小田城と土浦城でまず実験的に領地改革は行われることとなった。
まず、霞ヶ浦では今まで小規模で行われていた漁業に力を入れるため、人材の投下と漁村の発展を行った。
といっても百姓や町民を駆り出すのも限界があるため、移民や物乞いなどを水産物を碌として与えることで雇い、人材を確保した。
これにより今まで以上に漁業に力を入れることができるようになったわけである。
そして本日、俺は氏治様、親父と共に視察に土浦の港を訪れた。
「おお〜! 見違えましたなぁ」
「すごいのう、勝貞! 以前訪れた時とは別物じゃわい!」
「はははっ! 左様でございましょう、何分多額の銭を使って整備しましたゆえ、ここも一端の港となりました」
親父が言う通り、土浦の港は見違えるほど発展していた。
まず違うのは人の活気だ。
元々流通の要所なだけあって、人の数はそれなりに多かったが、現在は数ヶ月前とは別次元に栄えている。
まずそこに住む人の数が明らかに増えており、数ヶ月まで漁村だったその場所は町と呼べるまでに発展していた。
それに加え、漁師や港を訪れる商人の数も増しており、それがこの港の活気を更に高めていた。
「先ほど収穫が終わったようです。成果を見て行かれますか?」
「うむ! そうするとしよう!」
俺達は氏治様に従い、収穫したばかりの魚が並ぶ市場に向かう。
すると、こちらに気づいた漁師が笑みを浮かべてやってきた。
「おぉ、菅谷様! 魚はこの通り今日も大漁ですよ! 見ていかれますか?」
「うむ」
そして俺達は市場を回り、収穫した水産物を見学する。
その中で、氏治様はあるものに注目しその前に座り込んだ。
「犬吉丸! この貝、随分と多いのう!」
「ヤマトシジミという貝でございます。お吸い物などにすると美味しゅうございますよ」
「ええ。これからは若様の食卓にも並ぶこともありましょうな」
「おぉ〜! それは楽しみじゃ!」
と、きらきらと目を輝かせてシジミを眺める氏治様。
全く微笑ましい光景だねぇ、とじじくさいことを考えてしまう。
やれやれ、同年代だってのに前世の記憶があるせいでどうしても親目線から見てしまうなぁ。
どうせなら精神年齢まで若返りたかったなぁ。
そんなどうにもならないことを考えつつ、俺は親父に声をかける。
「それで父上、聞くまでもないかもしれませぬが、港での売り上げはいかがですか?」
「うむ、ここで得られる利益は大層なものじゃ。多額の銭を投資した甲斐があったというものよ」
なるほど、それは良かった。
ここは土浦における1番の収入源だ。
それを活かさない点はないからな。
この港は末長くこの土浦に富をもたらしてくれることだろう。
そして俺はその成果に満足し、2人と共に様々な魚を見て回った。
だがそれが終わった後、父に連れられある場所を訪れることとなった。
父はその場所について着くまでは何も教えてくれなかったが、だんだんと香ってくる臭いですぐに分かった。
父が俺達を連れてきたのは、塩の生産場であった。
「ここは塩を作る場所ですか、いつの間に……」
「はははっ! 水産物も大事だが、それと同時に塩も必要だろう。なので、港と並行して塩の生産場も増設したのだ」
流石は親父だ、確かにこの時代魚をはじめとした食糧を保存するのに塩は欠かせない。
それだけでなく、塩自体を売ることでも高い収益を期待できる。
それを理解していたからこそ、塩の生産場を増やしたのだろう。
これは思いがけないことだった。
魚に加えて塩も売り出せば、土浦はより栄えることだろうからな。
そうして満足しながら塩の生産場を出た後、話は百姓達に新しく導入された農具のことへと移った。
「そうじゃ、犬吉丸! ワシらが開発した農具じゃが、皆大喜びで使っておるぞ!」
「土浦の百姓達も同様に大喜びをしておりました、ああした反応を見ると心から作って良かったと思えますな」
まず、農具は一部の百姓達に試験的に導入されたのだが、大変好評であり百姓達は喜んで農具の量産に協力してくれ、瞬く間に多くの百姓達に農具は行き渡った。
これらの農具がもたらした功績は凄まじいもので、今まで百姓達が行っていた作業時間をかなり削ることに成功したのである。
「農具のおかげで畑仕事が前よりずっと早く終わるようになったそうでな。空いた時間に田畑を新しく作ったり紙や醤油作りをすれば銭がもらえると喜んでおったわ! 中には働けば働くほど銭が貰えるから畑仕事よりもこっちの仕事がいいと言っておった者もおったのう!」
「はははっ! まあ好評のようで何よりですな」
そう、農民達には時間の余裕ができたため、新たな田畑の開墾や再開発、治水工事に紙や塩といった品の生産に携わらせることが可能となった。
これらの事業に携わらされることについて百姓達は最初難色を示していたものの、仕事に応じて対価を与えられることを知るとすぐに納得した。
これも予想通りといえば予想どおりだが、ホッとしたのが正直なところだ。
「田畑を増やせば石高も増えましょう、この国はより豊かになるでしょうな」
小田家は七万石ほど。
これでは、いずれ常陸の半分以上を手にする佐竹には到底太刀打ちできない。
十万石、まずはそこを目指さねばならない。
しかし、いずれは領地が足りなくなってしまう。
農法自体を見直すのは勿論のこと、周囲の領地を切り取ることも考えなくてはならないだろうな。
だがそれには兵も人口も経済力も今のままでは足りない。
まだまだ改革していく必要はあるだろうが、また続け様にあれこれ提案してしまうと流石におかしいと思われてしまうだろう。
いくら現代で科学的に証明された方法、効率的な方法だとしてもこの時代では未知で上手くいくかも分からない方法なのだ。
それに加えて、まだ13歳の若造がそんな先進的なことをあれもこれも知っているというのははっきり言っておかしいからな。
しっかりと導入するべき理由作りをした上で、適当な期間を空けて提案していく方がすんなりと受け入れてもらえるだろう。
しかし急がなくてはならないのは事実だ。
川越野戦まであと六年。
あの敗戦が小田家衰退の始まりだった。
しかし、それまでに盤石な体制を整えればそれを防ぐことはできる。
真壁氏をはじめとした国人衆の離反も防げるだろう。
だからこそ今は国力を蓄えねばならない。
改革を急ぐ理由はそこにあった。
必要なのはとにかく川越野戦までに力をつけ、味方の離反を防ぐことが肝要だ。
そうしなければいずれ鬼真壁という何度も小田家に苦渋を舐めさせてきた敵が誕生してしまうこととなる。
だが逆に言えば、離反を防げば後にその鬼真壁を仲間にできるというわけだ。
最悪の敵が最高の味方になるわけである。
そのためにも、この8年の間に小田家を強くしなくてはならない。
そのことを考えれば、多少はリスクを冒してでも改革案を進言する必要があるかもな。
次にやるべきは……。
「犬吉丸! 何をぶつぶつ言いながら歩いておるのだ」
隣からぴしゃりと声をかけられ、ピクリと肩を振るわせる。
そして驚いて振り向くと、そこには怪訝そうな顔で俺を見る氏治様の顔があった。
「小太郎様、ぼうっとしておりました。申し訳ありません!」
どうやら親父が漁師達と話に向かった後、休んでいる間に思索に耽ってしまったらしい。
おかげで氏治様に話しかけられているのに気づかなかった、気をつけないとな。
「それは良いが、また考え事か? お主はいつも考え事ばかりでよく飽きぬなぁ」
「まあ私ももうすぐ元服する身ですから、考えるべきことも多いのですよ。それに思考を巡らすのは好きなので飽きません、身体を動かすのも好きですけどね」
「ワシも身体を動かすのは好きだ! 考え事は嫌いじゃけどな!」
と、清々しいほどはっきりと言ってのける氏治様。
アンタ、そんなんだから最終的に家が滅びるんですよ、と思わず言ってしまいたくなる。
まあ、今のこの人からすれば何のことかさっぱりだろうがな。
「若様は次期当主なんですからもう少し考えるようにしてくださいよ」
「考えるのはお主に任せる、頭がいいからな! その代わりに戦はワシに任せておけ! ワシ自身も槍を振るって見事活躍してみせるわい!」
いや、アンタは大将なんで引っ込んでてください。
それに普通俺が先頭に立って、アンタが指揮する側なんですよと言ってやりたい。
しかしまあ、大将として自らが先陣に立つという心構えはとても立派だと思うけどな。
民を助けようと率先して農具の開発に動いたのも氏治様だし、こういうところがあるから俺も憎めないし、民達にもよく慕われるんだろうな。
「あはは……頼りにしてますよ」
「うむ! そうじゃ犬吉丸、あの農具を開発した時のように何かまた領地を発展させる良い案はないかのう? もっとワシは父上や民のためになりたいのじゃ!」
氏治様と百姓考案の農具は政治様も大変お喜びになったそうで、しかもそれを作った1人が氏治様だと知ると政治様はさらに嬉しそうだったとか。
まあ、自分の息子があれほどの道具を作ったとなれば誇らしいだろうな。
氏治様の方も、父親がそれほど喜んでくれたなら嬉しいだろう。
そりゃあこうもやる気になるというものだ。
ちなみに開発を手伝ってくれた百姓達もそれぞれ褒美を与えられた。
皆大喜びで、このように褒美が貰えるならまた何かを開発したいとやる気満々である。
そこで俺は簡易的な塩水選のやり方を教え、その上で農業を実行させることとした。
この方法は簡単に言うと中身の詰まった良好な種籾とそうでないものを見分けるためのものであり、種籾を塩水に浮かべ、底に沈めば良好、沈まなければそうでないと判別することができるのである。
浮かんだ種籾には病気のものも多いため、周囲へ病気を移してしまうリスクを減らせるのと、発育を期待できるものを選べるというのが利点だ。
俺はこれを畿内の大名達が行なっている先進的な方法と称して教え、実行させた。
もし成果が出なかった場合は年貢を減らすと言うと彼らは喜んで引き受けてくれた。
成果が出るのはしばらく後だが、成果が無事実証されれば小田家全体でこの方法を用いることができ、生産量は大幅に上昇することだろう。
そうなれば更に石高は上昇するはずであり、楽しみだ。
さて、更に領地を発展させる方法か。
まずこの地に足りないのはいくつもあるが、1番必要なのはやはり人手だろう。
多くの米を耕すのも、田畑を増やすのも、兵を増やすにも人が増えなければどうにもならないのである。
なので、まず考えるべきは人口を増やす方法だろう。
「やはり領地を発展させるためにはとにかく人が必要です。なので、この地に人を多く集めるための方法を考えるべきですね」
「なるほど、してどのようにすればよいのじゃ?」
「まあまあ、いきなり答えを言ってはためになりませんからね。ここは小太郎様に答えを出していただきましょう」
「何と、ワシに考えさせるというのか!? 日が暮れてしまうぞ!!」
アンタ、それ自分で言って情けなくならないんですか?
大丈夫、ちゃんと適度にアドバイス出して答えへ導きますから。
「安心してください、それほど難しい問題ではありませんから。今までのことを思い返せばちゃんと分かりますよ」
「そうか……ううむ、人、人を増やす方法……そうじゃ、父上が言っておった! 戦に勝利し、土地を得ることでそこに住む人材を確保できると!」
なるほど、やはり大名の跡取り、ちゃんとその辺のことは分かっているか。
「流石です、小太郎様」
「ふふん、そうじゃろうそうじゃろう!」
まあ戦国大名としては正解ではあるので、ここは素直に褒めておく。
胸を張ってドヤ顔をする氏治様の顔は微笑ましいしな。
だがしかしまあ、完全な正解とは言えない。
「しかし、それは非常に困難です。あの政治様が苦戦されているとおり、戦で領地と領民を得るのはとても難しい方法なのですよ」
しかも、負ければ返す刀で領地と領民を逆に取られてしまう可能性もあるからな。
実際、氏治様も将来戦に負けて、それで領土も領民も何度も取られているわけだし。
正にハイリスク、ハイリターンな方法というわけである。
「むむぅ、ではどうすればいいのだ?」
「それも小太郎様に考えてもらいたいですな。氏治様が考案してくだされば、私からも政治様にそのように伝えられますし」
氏治様としても嘘より事実を言うことで政治様に褒められた方が気分も良いだろう。
なのでここは氏治様にぜひ頑張ってもらおう。
「うむむ……人を増やすには……そうじゃ、百姓や家臣達に子供を沢山産んで貰えば良いのではないか?」
なるほど、俺の想定していた答えとは違うが確かにそれも正解の一つだな。
この時代、出産はリスクが大きいとはいえ、戦で領民を得るよりは確実性のある手段だからな。
「正解ですが、子供達が大人になるまでにはかなりの時間を要します。小太郎様に考えて欲しいのは、近年中にこの小田家に人を集める方法なのです」
「では最初からそう言えば良かったのではないか?」
「うぐっ」
まさか氏治様に正論で返されるとは、俺もまだまだだな。
「申し訳ありませんでした……では小太郎様、その方法を考えていただけますかな?」
「人を集める方法……うむむ……」
「そうですね、小太郎様ならどんな領地に住みたいと思いますか?」
「そうじゃな……やはり戦の少ない平和な領地に住みたいな。あとやはり、食糧も沢山あって家族が飢える心配のないところに住みたいのう」
「そうですね、民の多くもそのような領地を望んでおります。そのような領地を作るにはどうすれば良いでしょう?」
「そうじゃな……他家が攻め込んでこないほどの戦力を身につけ、食糧を大量に生産できるようになれば良いんじゃないか?」
「その通りです! 小太郎様!」
多少誘導したが流石です氏治様、よく辿り着きました。
この戦国時代、戦で故郷を追われる者も多くそうした者達は安寧の地を求めている。
なのでそうした地を作れさえすれば、彼らからこの地へとやってきてくれるわけである。
「お、あ、合ってたか! ふ、ふふふっ、ワシも中々やるじゃろう!?」
「ええ、流石は小田家次期当主でございます」
「わっはっは! そうかそうか! で、これからその戦に強くなる方法と食糧の生産量を増やす方法を考えればいいんじゃな」
「その通りでございます、小太郎様」
氏治様の言葉に、俺は力強く頷く。
流石は氏治様、一度答えがわかればそこからの理解は早いな。
「戦に強くなる方法、様々ございますがやはり兵を増やすことでしょうな。兵を増やせば増やすほど単純に力は増していきますから」
「なるほどな! で、兵を増やすにはどうすればいいのじゃ?」
「兵を増やすにはその分兵糧が必要となります。つまり、石高を上げれば兵糧も増え、動員できる兵も増やせるわけですな」
「なるほど、つまり作ることのできる米を増やせばいいのだな! だから父上も百姓や家臣達に命じて田畑を増やしているわけじゃな」
「その通りです、小太郎様」
そう、千歯こきをはじめとした農具の開発により労働力を確保できるようになったことで、田畑の開発などの事業を新たに進めることができるようになったのである。
生産できる米を増やすことができれば、その分上の心配もなくなるし、戦に動員できる兵も増やせるし、もし余れば売って金にすることができると良い事ずくめなのだ。
「しかし、田畑を増やし過ぎれば耕せるものがいなくなるのではないか?」
「それについてはこの地に流れ着いてくる牢人や人売りから買った者などに与えてやればよいでしょう。そうすることで労働力を得ることができ、人口を増やすことができます」
「なるほどな、あのような奴隷達をどうにかできないかと考えていたが、その方法ならば解放した上で我が民とし、かつ労働力にもできるわけだ。流石は犬吉丸だ、良い策を思いつく」
「勿体なきお言葉」
俺も人売りを初めて目にした時は正直、衝撃を受けた。
何せ、俺の時代では人身売買なんて他国での出来事、目の前で見ることなんて決してなかったからだ。
しかし、現実でそれが行われているのを目にした時はショックだったな。
どうにかしてやりたいと思ったが、その時は銭もほとんど与えられてなかったので何もできず悔しい思いをしたのを覚えている。
しかし、この方法なら労働力の確保という名分を得た上で奴隷を解放することができる。
流石に明らかに病気持ちの者は受け入れられないが、それ以外の者は積極的に受け入れるとしよう。
「また、兵糧を買うのも兵を雇うのも銭があればどちらも可能です。更に、銭で武器や装備を買えば兵の強化にも繋がります。なので、銭を多く手に入れることができればどちらも手に入れることができるわけですな」
「おお、なるほど! だからお主は勝貞に漁業に力を入れるよう進言したわけだな!」
「その通りです。しかし、あれだけではまだ足りない、田畑の開発と並行して紙などの貿易品を製造する必要があるでしょうな」
「つまり、やるべきことを大雑把に分けると米の生産量を増やす、銭の獲得量を増やす、兵を増やすの三つというわけじゃな! なるほど、ワシにも分かったぞ!」
「その通りですございます、小太郎様」
氏治様の言うとおり、大雑把に言ってしまえばそう言うことだ。
とにかく増やす、増やす、増やす。
そうすることで、国は自ずと強くなるわけだ。
「そして犬吉丸、そのための策をお主はまだ持っておるのじゃろう? ふふふっ、ワシにはお見通しじゃぞ」
「慧眼でございますな、小太郎様。ええ、策はございます。伊達に様々な者達と交流して見聞を広めたわけではございません。この知識、必ずや小田家の役に立てて見せましょう」
「うむ、頼んだぞ!」
勿論、この知識は俺が生き抜くために、小田家が生き抜くために使うつもりだ。
そしてこの小田家を、他の家にも負けない勢力にするのだ。
氏治様も、それを望んでいるようだからな。
……望み、望みか。
そういえば、氏治様と長いこといるが、夢や将来の望みのようなものを一度も聞いたことがなかったな。
「小太郎さま、少し聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「む? なんじゃ、何でも申してみるが良い」
「小太郎様の夢を、聞かせてはいただけませんか」
それは、今まで口にすることはなかったものの俺が1番望んでいたことだったのかもしれない。
この小田氏治という武将が何を夢見て、何を目指したのか。
その原点を、俺はそれを知りたい。
俺は緊張した面持ちで、氏治様の答えを待つ。
「わっはっは!」
しかしすぐに返ってきたのは、いつもと変わらない屈託のない氏治様の笑い声だった。
「そんなもの決まっておる、家臣や民達が戦に怯えることなく笑い合える場所、そんな場所を作るのがワシの夢じゃ」
氏治様は俺の目を見て、曇り一つない目でそう言ってのけた。
いつも通りの、まっすぐな氏治様の言葉。
それが今の俺にはどうにも胸の深くに突き刺さったようだった。
そして自然と、俺の口から笑みが溢れた。
やっぱり、この人は俺の思ったとおりの人だ。
「あ、あと! 京みたいに沢山商人や職人が来て欲しいのう。あと、百姓から家臣達まで全員で連歌会なんかもやりたいのう、きっと楽しいぞ!」
「ええ、本当に楽しいと思います。だからこそ、民が安心して暮らせる家を作らねばなりませんね」
「うむ。じゃから犬吉丸、これからも頼りにしておるぞ」
「はい、小太郎様」
ええ、最後までお供しますよ。
俺は楽しそうに笑う氏治様を前に、より固く決心した。
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