15話 殿への進言
その後、運良く政治様との謁見が叶った俺達は早速先ほどした話を政治様にも再度した。
そしてその中の一つ、商売をよりしやすい環境を作るという問題について俺は1つ提案をした。
「ほう、楽市楽座とな?」
そう、楽市楽座。
言わずと知れた織田信長が行った政策として有名なものである。
しかし、織田信長より楽市楽座政策を行った人物の名は一般的にはあまり知られていない。
その人物は畿内の近江にて強大な勢力を持ち、一族の最盛期を築いた大名。
「はい、畿内の有力大名六角定頼が始めた商業振興政策にございます」
そう、六角定頼が最も早く歴史上行ったとされる政策だ。
とはいえ、歴史でいえばこれから8年後のことで今はまだ定頼も大名でこそあるものの、その政策は行っていないのだが。
しかし、将来的に政策を行うのは事実、つまり半分本当で嘘というわけだ。
そして俺は、楽市楽座の概要について説明する。
まず、市とは商売が可能な場所のことを指し、座とは商売をする場所を利用するために加入が義務付けられている組合のことだ。
で、楽市とは商売が可能な場所を自由にすること、つまり城下のどこで商売を行なってもいいわけだ。
そして、楽座は組合への加入義務をなくすという意味である。
座に加入しての商売は上納金を要求されるため、商人達を悩ませていたが、その加入義務をなくすことで上納金を気にすることなく純粋な利益を得る事ができるのである。
つまり、商売の敷居を下げてより自由な商売を商人達は行えるわけだ。
それらを説明すると、政治様はなるほどと頷いた。
「ふむ、つまりその政策を行うことで商人達を城下に多く集める事ができるわけだな」
「その通りでございます」
「しかし、座を廃止すれば座の者達から今まで得ていた税収がなくなるであろう。そうしてまでその政策を行う価値はあるのか?」
「ございます。商人達を集める事はきっかけに過ぎません。狙いはその先にあります」
「ふむ、申すが良い」
俺は続けて、楽市楽座について説明する。
この政策を行う上で、1番の利点は人口の増加が期待できる事だ。
商人が城下に移住してくれば、商人が扱う商品に関わる農民、漁師、職人などの需要も高まり、仕事を求めてさまざまな民が移ってくる。
人口が増加すれば当然、税収は増え、兵力の増加にもつながり、より多くの生産物を生産する事が可能となる。
そうなれば結果的に政策を行う前よりも収入は遥かに増え、得をすることとなる。
この政策の最大の利点は人を集めることができる、まさにこれに尽きるのである。
俺が説明すると、政治様も合点がいったのか大きく頷いた。
「なるほど、確かに人材の不足は我が家の課題であった。せっかく金のなる木があるのに労働力の不足でそれを活かせないとな。だが、その政策によって人を多く集める事ができればそれも解決できるじゃろう」
「その通りでございます」
「その政策を考えた六角定頼とやらも大したものじゃが、そんな話を聞きつけてくるとは政貞も相変わらず耳ざといのう」
「昔から他国の話を聞くのは好きでしたからな。それが殿のお役に立てるのであれば何よりでござる」
「はははっ! そして、この政策を考えるきっかけとなった小太郎の行動も見事じゃ、ようやった!」
「ははっ! 有難きお言葉でございます!」
「うむ。して、その楽市楽座じゃが人の往来を増やせば増やすほど効果がありそうじゃのう。思い切って関所の撤廃などを行えば効果も最大限高まるじゃろうか?」
「それは勿論でございます。しかし、そうなると関所からの収入を失う事になり、他国の密偵が侵入しやすくなってしまいましょう」
「お主の言う通りではあるが、政策の効果を最大限に活かすのであればそれが1番であろう。何も関所を完全になくすわけではない。要所にだけ関所を残し、不必要なところだけ撤廃すればよい。収入に関しても、一時は下がるが政策により人が集まればそれ以上の収入を得られるじゃろうしな」
「その通りでございますな、いらぬ心配でございました」
小田政治様、やはり小田家歴代当主の中でも名君と呼ばれるだけはある。
楽市楽座の概要を聞いただけで、その最大限の活用方法を自ら考案するとはな。
楽市楽座の効果を最大化するために関所を撤廃したのは織田信長もやっていたことだ。
銭は卑しいものと考える武士も多い中で、銭の重要性を理解するだけでなく、俺のような年若い家臣の進言を聞き有用性があれば積極的に導入しようとする度量。
この人を主に持てて俺は本当に幸運だと言えるだろう。
氏治様共々有している柔軟な思考といい、間違いなく優れた人物だ。
尤も、あと数年で寿命だというのがとても惜しいがな。
「そして政貞、前々から話そうと思っていたのだがお主達が考えてくれたあの農具、そろそろ隠し通すのが困難になってきてな。じゃから、思い切って我が家が専売で売り出そうと思うのじゃがどう思う?」
確かに、連絡手段が少ないこの時代とはいえ既に小田領内全体で使われている千歯こきを筆頭とする農具を隠し通すのは無理があるだろう。
この時代の日本の技術力は全体的に高い、いずれは他国もあの農具を自領で生産できるようになり、他家との差は埋まってしまうだろう。
だとするなら、いっそのことその前に農具をウチが独占して売りに出し、莫大な利益を得るというのは充分ありだ。
そもそも、楽市楽座を行い商人の行き来が激しくなれば情報が他国に漏れるのはすぐだろうからな。
政治様の言う通り売りに出すべきだろう。
「そうですな、私もそれがよろしいと思います」
「父上と政貞がそう言うなら、正しいと思います」
「そうか、ではそのようにしよう」
これで他国との農業における差は埋まってしまうが、まあ仕方のないことだな。
しかしその分、大きく儲けられるだろうから良しとしよう。
まあ、商人の話していた問題についてはとりあえずこれで解決か。
これでここに来た一つの要件は完了した。
次はもう一つの方について話すとしようか。
「殿、恐れながらもう一つ話すべき内容がございます」
「ふむ、申すが良い」
「府中攻め、その策についての進言でございます」
政治様はそれを聞くと、目の色を変える。
「ほう、またもや良き策を考えたというのか」
「その通りでございます。まず、以前の戦で府中城を正面から落とす事は困難であると分かりました」
「うむ、城の堅牢さはもとより城主である貞国の指揮も見事で歯が立たなかった。しかし、お主にはあの城を落とす策があるのじゃろう?」
「はっ! この策は我が家臣、山本勘助の考案した策にございます。まずは、その策の内容について聞いていただければと」
そして俺は政治様に策の内容を話す。
すると政治様はその内容に関心を寄せるとともに、非常に驚いているようだった。
「まさか商人や僧侶を用いるとはな……考えもせんかった。あの勘助という男、やはり凄まじい頭脳の持ち主じゃ。政貞、お主は良き家臣を捕まえたのう」
「誠に、私には勿体なき家臣にございます」
本当に、俺には勿体無いぐらいだ。
しかし、家臣として仲間に引き入れた以上はその力を思う存分に振るわせてもらうがな。
「よし分かった。今回の府中攻めはお主に一任しよう、頼んだぞ」
「ははっ!!」
こうして俺は正式に、府中攻めの役目を担うこととなったのであった。
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