12話 決着、土浦城
「父上……」
「政貞よ、見事であった。お陰で間に合ったぞ」
「菅野勝貞、まさかお主も打って出てくるとはな」
戦において大将と大将が邂逅する。
この戦国においても稀、いやあり得ないであろうはずの出来事が今、この土浦の地で起こっていた。
方や関東八屋形の1つである名門、小田家の重臣である菅谷勝貞。
方やこの常陸の地にて古来から力を持ち治めてきた名族、大掾家。
今両者は向かい合い、その身一つで間も無く激突しようとしていた。
「大掾貞幹よ、政貞は我が菅谷家を継ぎ、次代の小田家を支える者。お主には決してやらせぬ」
「それ故に自らが城を離れてまでここへ来たというわけか。しかし、城主のお主がいなければ城兵達の統率は乱れるのではないか? こうしている間にも城は落ちるかも知れぬぞ」
「我が城は決して落ちぬ。我が兵と領民達を舐めるでないわ」
互いに一歩も引くことなく、言葉を交わし合う。
その様を、政貞はただ見つめていた。
「政貞よ、お主は兵を集めワシの代わりに城へと戻るがよい。そうすれば士気は更に上がり、すぐにでも敵兵を蹴散らしてやれるだろう」
政貞は父の言葉に対して一瞬何かを言おうとするが、父の目を見て口を閉じると馬へと乗った。
「父上、ご武運を」
「ふふっ、子が父の心配など10年早いわい」
そう笑う父の表情に政貞は微笑むと、勝貞が連れてきた家臣達と共にその場を去った。
そしてその場には、勝貞と貞幹だけが残った。
「惜しかったな。お主の倅さえ討つ事ができれば、菅谷の命脈を断つことができたものの」
「そうじゃな。しかし、お主はなぜここに来た。大将であるお主が死ねば戦に敗けるだけでなく、大掾の行末も危ういだろうに」
しかし、貞幹は勝貞の言葉を鼻で笑うと答えた。
「ワシが死んだとしても、その跡は倅が立派に継いでくれよう。ワシはその礎よ」
「ならばお主、初めから自分が死ぬ覚悟で来たということか」
勝貞の言葉に、貞幹は頷く。
「ワシがこの戦に臨んだのは何としてもこの土浦とお主達の持つ知識を倅に与えるためだ。それさえあれば、我が大掾家は再びこの常陸を支配できるだろう。そのためならこの命、喜んで捨ててやるわい」
貞幹の目的は息子のため、一族の繁栄のためであった。
そのためにこの貞幹は、この命を賭けて戦に臨んだのだ。
既にこの常陸には大掾氏以外の様々な勢力が力を持っており、特に佐竹はこの常陸において強大な力を有している。
大掾氏がこの常陸にて覇権を握るには霞ヶ浦の利権は勿論、小田と菅谷家の持つ知識と技術を手に入れることは必須。
そのためにも、この土浦の地を何としてでも手に入れなければならない。
たとえ犠牲を払ったとしても、自身の命よりも価値があると考えたからこそ、貞幹はこの土浦を攻めた。
この戦は大掾の命運を賭けた戦。
であるからこそ、この戦にかける並々ならぬ思いが敵である勝貞にも伝わってきた。
そして勝貞にも、この慶幹に共感できる部分があった。
それは、この戦において共に息子と一族のために戦っていること。
息子のために自らの城と領地を守り抜くこと、息子のために何としても領地を手に入れること。
守り、奪う。
行動こそ真逆であるものの、両者の思いは一致していた。
両者はこの戦場に戦の将である前に、子の父親として立っているのだ。
親であるからこそ、子供の未来を守らなければならない。
その覚悟と意思が両者に並々ならぬ力と闘志を与えていた。
「この戦、ワシとお主どちらが生き残ったところで既に勝敗は変わらないだろう」
「その通りだな」
勝貞と貞幹の言葉は真実であった。
勝貞は重臣と政貞に兵達の指揮を任せ、貞幹は同盟者の島崎に指揮を任せている。
従って戦場の勝敗を決するのは彼らであり、勝貞と貞幹の手からは既に離れていた。
どちらが死んだところで、戦の勝敗は変わらない。
しかし、だから、だからこそ2人は負けるわけにはいかなかった。
互いに武士として、父としての意地と矜持をこの戦に賭けて臨む。
「菅野勝貞、参る!!」
「覚悟!!」
そして両者の雄叫びと共に、互いの槍と槍はぶつかり合った。
大将と大将の振るう槍の撃ち合い。
長く続くかと思われたそれは、しかしたったの数合で終わりを告げた。
「がっ……!?」
4度目の打ち合い。
その際、僅かに早く貞幹の癖を見抜いた勝貞が胸を貫き、勝敗が決したのだった。
達人と達人、互いが打ち合ったが故の呆気ない決着だった。
的確に心の臓を貫かれた貞幹は即死。
「大掾慶幹、見事であった」
勝貞は一言、貞幹に敬意を示すとその首を取り、高らかに宣言した。
「大掾貞幹、この菅谷勝貞が打ち取ったり!!!」
この宣言は菅谷勝貞が見越していた通り、戦の決定打にはならなかった。
この戦の勝敗の決め手となったのは菅谷政貞と真壁家幹が率いる援軍であった。
政貞と真壁の率いる軍勢は獅子奮迅の活躍を見せ、次々と将兵を討ち取られて瓦解。
そして城から打って出た城兵達の勢いを押し止められず、敗北が決定的となったところで島崎は撤退を宣言。
土浦攻城戦は僅か半日で終わりを告げたのだった。




