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転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
第二部

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107話 小田小太郎、宇都宮の民と会うその2

 あれからワシは四人と歩き、城下を目指していた。


 だが、四人のことがどうしても気になったワシは彼らに質問をすることに決めたのだった。


「なあ、言いたくないなら答えなくて構わぬが、お主達はどこから来たのだ?」


 その言葉に、男は一瞬迷ったような表情を見せたが、ワシの顔を見るとすぐに答えた。


「宇都宮領です。俺達はそこで百姓をしていました」


「百姓?」


 そこでワシは疑問に思った。


 ちゃんと職があるのに、なぜわざわざこんなに痩せ細ってまで小田家へと来たのか。


 だが、それはすぐに明らかとなった。


「正しくは百姓だった、でしょうか。つい数日前に畑と家を没収されて領地を追い出されてしまいまして……」


「な、なんじゃとぉ!?」


 ワシは耳を疑った。


 百姓は国の宝じゃ。


 だというのにこの者は追い出されたという。


 それがワシには信じられなかった。


「その……失礼じゃが、何か罪を犯したのか?」


「……はい、犯しました。それは事実です」


「そ、そうだったか……ちなみに、罪とは何を犯したのじゃ?」


 それ次第では小田の領地に迎えることはできなくなってしまう。


 そう思いながらも、ワシは男に聞いた。


 すると———


「領内で禁止されていた小田の農具……それを使ってしまったのです」


「……は?」


 ワシは思わず声が漏れてしまった。


 ワシの聞き間違いか?


 そうじゃ、そうに違いない。


「そ、その言い方じゃと小田家から売られた農具を使っただけで領地を追い出されたように聞こえるが……」


 ワシがそう言うと、今度は妻の方が答えた。


「信じ難いかもしれませんが、事実です。小田で作られたすこっぷと運び車、それを使っていたのを見た宇都宮の武士達に突然領地を追放され、この小田の地へと流れ着いたのです」


「……」


 もはや言葉も出なかった。


 この者達は嘘をついていない、それは分かる。


 じゃが、そんなことがあり得るのか?


 小田の農具を使っていただけで追放される、そんなことが……。


「私達は最初、小田家の農具を使うことが駄目だなんて知りませんでした。だから商人から農具を買って使っていたのですがある日突然、武士達に小田の農具を使うことは宇都宮への反逆行為だと言われて国を追い出されてしまい……」


「……今に至るわけか」


「……はい」


 なんと、何ということじゃ。


 そんなことがあり得るのか。


 守るべき民を、命を育む米を作ってくれる百姓を武士が追放する。


 それがワシにはどうしても信じられなかった。


 だが、この者達が言っている以上、それは事実なのじゃろう。


 だとすれば、宇都宮の武士達が行なった行為は許し難い行いじゃ。


「……許せぬ」


 気付けばワシの口から、低い声が漏れていた。


 農具を使った。


 ただそれだけで畑を奪われ、家を奪われ、幼い子供まで連れて、知らぬ土地へ逃げねばならなかった。


 そんなもの、政ではない。


 ただの意地じゃ、くだらぬ意地以外の何ものでもない。


「お主達は」


 ワシは穏やかな声で尋ねた。


「その農具を使って、何か悪いことをしたのか?」


「……いいえ」


 男は首を振る。


「むしろ、畑仕事は前より楽になりました。土を掘るのも早くなり、荷も運びやすくなって今年は少し多く作れるかもしれないと、皆で喜んでいたのです」


 男の声が、途中で震えた。


「それなのに、小田の品を使う者は小田へ心を売った者だと、そう言われました」


「村の者達も最初は庇ってくれました。ですが、次は自分達が罰せられるかもしれぬと……」


 妻が幼い娘の手を強く握る。


「誰も、何も言えなくなってしまいました」


「……そうか」


 ワシは拳を握った。


 宇都宮の民が小田の品を使った。


 それだけで罰せられる。


 それは宇都宮の者達が、小田を恐れ憎んでいる証ではないか。


 民が小田の暮らしを知り、小田の品を欲しがり、小田の方が良いのではないかと考え始める。


 それが怖いから農具を禁じ、使った者を追い出す。


 何という器の狭さじゃ。


 大名の……武士のやることでは断じてない!!


「若様」


 妻が、不安そうにワシを見た。


「私達は、本当にここにいてよいのでしょうか。宇都宮の者だからと追い出されたりは……」


 だがワシは、笑って返した。


「安心せい。そんなことは決してない」


 小田の者達は皆おおらかで、そんなことを気にする者達ではない。


 それに……。


「実はここに住んでる者の中にも、佐竹や島崎から来た者達もいるんじゃ。しかし皆、今では小田の一員として仲良く暮らしておる。だからお主達もすぐに馴染めるじゃろう。安心せい」


 男と妻が、目を見開く。


「お主達は、ここで生きればよい。腹いっぱい食べて、身体を休めて、また畑を耕せるようになったらまた仕事をしてくれたらいい」


「若様……」


「ただし」


 ワシは少しだけ笑った。


「小田の畑は新農具の宝庫じゃ! 一から全て使い方を覚えるのはなかなか大変じゃぞ!?」


 一瞬、男がきょとんとする。


 だがやがて、その顔に小さな笑みが浮かんだ。


「……はい。便利に仕事ができるなら喜んで覚えます」


 


 宿へ着く頃には、吉郎がすでに飯の支度を整えてくれていた。


 湯気の立つ粥。


 焼いた魚。


 貝の入った少しばかりの味噌汁。


 それだけの飯だった。


 だが子供達は、まるで宝でも見るように。


 膳を見つめていた。


「ふふっ、遠慮するな」


 ワシは言った。


「腹いっぱい食べるがよい」


「……いただきます」


 男が、震える声で手を合わせる。


 次の瞬間、子供達は夢中で粥を口へ運び始めた。


 娘は熱さに驚きながらも、涙を流していた。


「おいしい……」


「おいしいね、お父さん……」


 その言葉を聞いた時、ワシの胸がぎゅっと締め付けられた。


 飯を食う。


 家族で笑う。


 明日も畑を耕す。


 本来なら、当たり前でなくてはならぬことだ。


 それを領主の意地一つで奪われる。


 そんなこと、許してよいはずがない。


「若様」


 吉郎が小さな声で近付いてきた。


「宇都宮から来る者は、この一家だけではありませぬ。最近、城下でも似たような話を聞きます。小田の品を扱った商人が関を越えられなくなったとか、小田のことを褒めた足軽がひどく叱られたとか」


「……そうか」


 ワシは宿の中で飯を食べる家族を見た。


 宇都宮で何が起きているのか。


 まだ全ては分からぬ。


 だが民が苦しみ、家臣達が民を押さえ付け、小田を恐れるあまり自分達の領地を苦しくしている。


 それだけははっきりと分かった。


「ねぇ、若様、これはなあに?」


 すると息子は箸で何かを掴んで見せてきた。


「おお」


 それを見てワシは思わず声を上げた。


 それは政貞と時には霞ヶ浦へ捕まえに行き、時には腹一杯食べたシジミであったからだ。


「それはシジミと言ってな。魚と同じ美味い湖の幸じゃ」


「へぇー! ボク、初めて見たー!」


 そして息子はバクリと口に入れる。


 すると次の瞬間。


「おいしいっ!! こんなものたべたことない!!」


「そんなにか……あむっ……本当だ、美味い、美味いな!!」


「えぇ、本当に美味しいわ……!!」


「おいしいー!!」


 すると家族皆がシジミを口に運び、満面の笑みを浮かべた。


 それを見たワシどころか、宿の者達が思わず笑顔になるほどの眩しい笑みだった。


「ふふふっ、美味しいか! それは何よりじゃ!」


「本当に美味しいです。あの、小田の民達は皆毎日このような物を食べているのですか?」


「うむ。季節によっては毎日食べられるぞ。何せ、毎日ワシの友が沢山ここに運んできてくれるからのう」


「わぁ! 若様の友達ってすごいんだねっ!!」


「ははっ、そうじゃぞ!! ワシの友は凄いんじゃ、政貞はな!!」


 その時、友の、政貞の顔が浮かんだ。


 菅谷政貞。


 政貞なら宇都宮の話を聞いて、何を考えるだろう。


 きっと、すぐに策を思い付く。


 宇都宮の民が小田の暮らしを知り、自ら小田を選びたくなるようなそんな策を。


「……いや」


 ワシは小さく首を振った。


 いつまでも、政貞に頼ってばかりではいられぬ。


 政貞は牛堀で自分の役目を果たしている。


 ならばワシも小田の嫡男として、自分に出来ることをせねばならぬ。


「吉郎」


「はい」


「父上へ使いを出す。宇都宮から流れて来た者達のこと、小田の品が禁じられていること、全て伝えてくれぬか?」


「勿論です!」


「それに加えて済まぬが……」


 ワシは、宿の中を見た。


「町方へも伝えてくれ。宇都宮から来た者を見つけたら、まず飯を食わせてくれと。話はその後でよい。働く気がある者なら、小田は受け入れるとな」


「承知しました!」


 吉郎が力強く頭を下げる。


 ワシは再び家族の方へ目を向けた。


 宇都宮の民が小田へ逃げて来る。


 それは、小田が勝っているからではない。


 宇都宮の民が生きるために、助けを求めているだけだ。


 ならばワシは応えねばならぬ。


 小田小太郎として。


 いつか小田家当主となる者として。


 民が助けを求めた時に、手を差し伸べられる主君にならねばならぬ。


 その日ワシの胸には、これまでとは違う決意が静かに、生まれ始めていた。

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