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転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
第二部

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104話 夏の庭での再会その2

「政貞殿!」


 次に声をかけてきたのは、江戸忠通殿だった。


「忠通殿まで!?」


「評判を聞けば、見に来ぬわけにはいかぬ」


 忠通殿は水の庭の周りへ並んだ屋台を見て、実に楽しそうな顔をしていた。

 

 冷やした井戸水で作った甘い飲み物。


 焼き魚。


 果物を切って売る者。


 竹の水鉄砲。


 葉舟。


 子供用の小さな木の舟。


「商人達も良い顔をしておるな」


「はい。市銭は取っていません。代わりに町を汚さぬこと、値を釣り上げすぎぬこと、子供達を騙すような商いをせぬこと、それだけは守らせています」


「なるほど」


 忠通殿は満足そうに頷く。


「商人は、銭を稼げる場所へ集まる。だが、安心して商いが出来る場所へ根を張る。牛堀はもうただの港ではないな。人が集まり、また来たいと思える町になっている」


「ありがとうございます」


「だが」


 忠通殿はにやりと笑った。


「次は江戸の町でも、似たような催しをやるとしようぞ。牛堀だけに客を取られるわけにはいかぬからな! はっはっは!」


「おお」


 俺も笑う。


「それなら、江戸と牛堀で舟比べでもしますか」


「面白い!」


 忠通殿の目が、商人のそれへ変わった。


「負けた方が 勝った方の市へ、一月は優先して荷を回す!」

 

「……忠通殿、遊びに来たんですよね?」


「商いの機会を見逃す商人などおりませぬ!」


 相変わらずである。



 


「菅谷政貞殿」


 その時不意に聞こえた声に、その場の空気が少しだけ変わった。


 振り返る。


 そこにいたのは数人の供を連れた、一人の若い武将だった。


「佐竹、義昭殿……」


 佐竹家。


 それはかつて命を賭けて戦った相手。


 小田家最大の敵であった存在だ。


 今は和睦を結び、小田と共に常陸を守る者である。


 だが、そう簡単に忘れられるわけではない。


 あの戦いの熾烈さも、それによって失ったものも……。


「驚かせてしまいましたかな」


 義昭殿は、静かに頭を下げた。


「牛堀に、子供達が皆笑える場所が出来たと聞きましてな。一度、己の目で見てみたくなったのです」


「……そうでしたか、歓迎いたします」


 俺は、義昭殿を水の庭へ案内した。


 義昭殿はしばらく何も言わず、水遊びをする子供達を見ていた。


 小田の子。


 佐竹の旧領から移ってきた子。


 漁師の子。


 商人の子。


 皆がそんなことなど関係なく、水を掛け合い、声を上げて笑っている。


「戦が続けば……」


 義昭殿が小さく呟いた。


「この者達は、こうして笑うことも出来なかったのでしょうな」


「……はい」


「父上は」


 義昭殿は一度だけ空を見上げた。


「常陸を一つにしたかった。それが常陸を強くし、民を守る道だと信じていたのでしょう」


 俺は何も言えなかった。


 義篤殿も、佐竹を守るために戦った。


 義昭殿も、父の遺した佐竹を守ろうとしている。


「ですが」


 義昭殿は、子供達へ目を戻す。


「戦で一つにするだけが、民を守る道ではないのですな。小田と佐竹が今こうして手を取り合えていること、それもまた、父上が残してくれた道なのかもしれませぬ」


 そう穏やかに話す義昭殿の顔からは、小田への恨みも、怒りも感じられなかった。


 そこにはただ、子供達の姿を見つめる穏やかな少年の姿があった。


 だからこそ、俺は彼に言った。


「義昭殿。佐竹の子供達も、いつでもここへ連れて来てくだされ。牛堀は、小田の者だけが笑う町にはしたくありませんからな」


 義昭殿は、一瞬だけ驚いたような顔をした。


 そして、穏やかに笑う。


「……ありがとうございます。ならば次は佐竹の地からも、子供達を連れて参りましょう。その時は、竹の舟比べで負けませぬぞ」


「はははっ、望むところです」


 こうして俺は佐竹義昭という男と出会い、その人となりを知ることができたのだった。


 


 夕方が近付き、水の庭が少し落ち着き始めた頃、町番の一人が俺のもとへ駆けてきた。


「政貞様」


「どうした?」


「相模から来たという旅の商人が水の庭を見せてほしいといっております。子供達も連れているようですよ」


「相模から?」


 相模。


 そこは北条の領地のはずだ。


 確か、北条は千葉と手を結んでいた。


 恐らく、千葉の港を経由してここへ来たのだろう。


 俺は少しだけ気になった。


「構わない。町の決まりを守るなら誰でも歓迎する」


「はっ!」


 やがて水の庭の入口から、一組の旅人が入ってきた。


 商人らしい質素な着物を着た二十代後半ほどの男。


 その傍には、目を輝かせる幼い子供達。


 そして商人の護衛にしては、あまりにも身体の大きな男が一人。


 周囲を油断なく見渡していた。


「ここが牛堀の水の庭ですか」


 商人の男は穏やかな笑みを浮かべた。


 だがその目は池の深さ、町番の立ち位置、逃げ道、港へ続く道、その全てを一瞬で見ているように思えた。


 そして何よりその鋭い眼光と顔に浮かぶ切り傷がこの男が只者でないことを物語っていた。


 この男、本当に商人か?


 護衛の者もただの者にしては尋常ではない覇気を……いや、詮索は不用か。


 俺は腰を上げると、答えた。


「ええ、子供達も遊びますか?」


「よろしいのですかな」


「もちろん。ここは皆が楽しむための場所ですから」


 俺が笑みを浮かべると、商人の男は幼い子供達を見た。


「聞いたか、好きに遊んでよいぞ。ただし、町の決まりは守るのだぞ」


「「はーい!」」


 子供達は嬉しそうに走っていく。


 その背を、商人の男は優しい目で見送っていた。


「良い町ですな」


 男は、水車の下で笑う子供達を見ながら言う。


「商いだけではなく、子供が笑える場所まで作るとは牛堀の主はなかなか面白い御仁らしい」


「……ありがとうございます」


 俺はどこか不思議な気持ちで、その男を見つめた。


 旅の商人にしては、あまりにも落ち着いている。


 そして隣の大男も水の庭の竹柵や、町番の動きをまるで城の守りでも見るような目で眺めている。


 一体この二人は何者なのか。



 俺は間も無く、それを知ることになるのだった。

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