103話 夏の庭での再会その1
「はいそこ走っちゃ駄目だよー! 転ぶと危ないから気をつけてねー!」
「「はーい!」」
七月中旬、ついに完成した牛堀・夏の水の庭にて俺は自ら監視員を務めて子供達を見守っていた。
夏の日差しにも負けない子供達の笑顔は輝いており、こうして眺めるだけでも元気になってくる。
また、領主である俺がこうして見守っていても怯えることなくリラックスして皆は遊んでくれている。
それが皆に信頼されていることの証に思えて、とても嬉しい。
そんなルンルン気分で監視員をやっていたのだが、ふと声をかけられた。
「政貞!」
聞き慣れた声に俺は振り返った。
「父上!?」
そこには笑みを浮かべた親父、勝貞の姿があった。
その後ろには父上の供をする家臣達。
そして———
「兄様遊びに来たのー!」
「ちよー!!」
可愛い我が妹、ちよの姿があった。
俺はこちらに駆け寄ってくるちよを受け止め、抱きしめる。
「もう兄様ったらひどいの! またちよとかあさまを置いてっちゃうんだから!」
「ごめんなぁ、ちよ〜……兄様ちっともちよと遊べなくて」
「ふふん! でもちよ分かってるの! 兄様は大人だから忙しいの! だから我儘言わないよ!」
「ちよぉ〜!!」
健気な妹の言葉に俺はもう涙が止まらなかった。
そんな妹の成長と優しさに感動していると、親父(邪魔者)が咳払いをした。
「全く、ワシの方にも、もっと喜んでくれていいではないか。なあちよ〜?」
親父、城主とは思えないほど顔がデレデレになってるぞ。
まあそれは俺もなんだけど。
「兄様、顔に出さないだけでとうさまに会えたことも喜んでるの! だから気にしなくていいの!」
「そうかそうか〜! ちよは流石だな〜!」
と、そんなこんなで俺達はちよにデレデレになってしまい正気に戻るまでに五分かかった。
そして落ち着くと、親父がここに来たわけを話した。
「近くまで来たらな。牛堀に、とんでもなく面白い場所が出来たと聞こえてきたのだ。ははっ、まさかお主が水を溜めた遊び場を作るとはな」
「にいさまはやっぱりすごいのー!」
「ははは……」
俺は頭を掻いた。
「たまには皆が、仕事も戦も忘れて笑える場所があってもいいかなと」
「うむ、良い考えだ」
父上は水の庭を見渡した。
浅い池で、子供達が水を掛け合っている。
竹樋では葉で作った小舟が水に乗り、子供達が自分の舟を追いかけていた。
水車の下では上から落ちる水を浴びようと、何人もの子供が歓声を上げている。
「領主が民へ与える物は米や銭だけではない。笑う余裕もまた、民を生かす物なのだろうな」
「父上……」
とても良いことを言っている。
先ほどまで娘に顔を溶かしていた男とは思えないな。
「よし」
すると父上は急に腕をまくった。
「わしも試してみよう!」
「え?」
「父上!?」
「ちよも行くのー!」
するとちよと父上は、子供達が集まる水車へ歩いていく。
「おじさん! そこに立つと水が落ちてくるよ!」
「おお、そうか! では遠慮なく———」
ざばあっ!
「ぬおおおっ!?」
「きゃーー!!」
水車から汲み上げられた水が、父上とちよの頭から見事に降り注いだ。
一瞬、辺りが静かになる。
だが。
「はははははっ!」
「父上、びしょ濡れじゃないですか!」
「ちちうえすごい顔なのー!!」
「これは!」
父上は濡れた髪をかき上げると、子供達へ向けて大笑いした。
「夏には最高ではないか!」
その言葉に、子供達がまた歓声を上げる。
父上もちよも、すっかり子供達に混ざって、水車の下をくぐり始めていた。
「……やれやれ、殿方は常に童心を忘れぬものですね」
するとまた、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには母さんの姿があった。
「母上!? 母上まで来られていたのですか!?」
「はい。こっそり政貞に皆で会おうと思って来たのですが、まさかこのようなものを作っていたとは、工作好きは相変わらずですね」
母さんはそう言うと穏やかに笑った。
「はははっ、確かにそうですな。俺もいつまでも童心を残しているのでしょうな」
「それでいいのですよ。殿方は少し童心を持っていたぐらいが可愛らしくて魅力的です。葵殿も、きっとそう思っていますよ」
「そうなんでしょうかね……」
アイツは俺が子供っぽいとこ見せるとどちらかと言うと呆れるんだがな。
俺は母上と共に、ちよや父上、子供達の姿を見つめる。
すると、母上はふと言った。
「そう言えば政貞、葵殿との初夜は済んだのですか?」
「ぶふっ!?」
俺は驚きのあまり、吹き出してしまった。
何を、一体急に何を言い出すのだこの母親は!?
「ななな、何をおっしゃられるのですか母上!!???」
「あらあら、その様子ではまだのようですね。私としては、早く孫の顔を見せて欲しいのですけどね、ふふっ」
いや、ふふっじゃないですよ。
全く、とんでもない爆弾発言をしてくれたよ。
そしてそれからも母さんの追求は続き、親父達が帰る頃には俺はほとほと疲れ果てていた。
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