↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/117

101話 春季評定その4

「そして最後に、牛堀で一番大事なものについて話そう」


 俺は、町と水路が描かれた図を脇へ寄せ、新しい図を広げた。


 そこには、霞ヶ浦へ開いた牛堀の船着き場と、周囲へ伸びる水路、倉庫、市場、そしてまだ空白の多い土地が記されている。


「港だ」


 皆の視線が、一斉に図へ集まった。


 牛堀は、ただの町ではない。


 霞ヶ浦から荷が集まり、船が休み、商人が行き交う場所だ。


 ここを整えられるかどうかで、牛堀が小さな城下町で終わるか、それとも多くの人が集まる大きな港町になるかが決まる。


「今も手巻きの荷揚げ機を置いている。以前より、船から米俵や木材を下ろすのはずっと楽になった」


「おう。あれは本当に楽だな」


 由兵衛が、嬉しそうに頷く。


「前は、何人もで担いで降ろしていた荷が、縄を回すだけで上がっていく。最初に見た時は、正直ちょっと気味が悪かったぞ」


「褒め言葉として受け取っておくぞ」


 俺が苦笑すると、広間に小さな笑いが広がった。


「だが、荷揚げ機を一つ置いただけでは足りない。これから船が増えれば、船着き場も倉も、人手も足りなくなる」


 俺は図の港の周りへ、いくつか印を付けていく。


「まず、荷揚げ機を増やす。大きな荷を扱う場所には手巻き式の巻き上げ機を置き、軽い荷を運ぶ場所には小型のものを置く」


「大きな荷というと、米や木材ですか?」


 勘助殿が尋ねる。


「それに塩、石、油の樽、船の帆柱。あと、投石器や大型の弩を運ぶ時にも使える」


「港だけでなく、戦にも役立つということですな」


「そうだ。でも、一番は商いのためだ」


 荷を早く下ろせれば、船は長く停まらずに済む。


 荷役をする者も、無理に重い物を担いで身体を壊さずに済む。


 商人は余計な銭を払わず、次の商いへ進める。


 そして港には、さらに多くの船が入るようになる。


「荷揚げ場には屋根も付けたい」


「屋根を?」


「雨で米や紙、麻布が濡れるのを防ぐ。荷を運ぶ者も、雨の中で慌てずに済む」


 紙や布、干魚、油。


 水に弱い荷はいくらでもある。


 港が便利でも、雨が降るたびに荷が駄目になるようでは商人は安心できない。


「それと、夜でも船を出し入れできるように、灯りを置く」


「夜まで働かせるのか?」


 由兵衛が、少し眉をひそめた。


「毎日ではない。ただ、急ぎの荷や、日暮れ前に風が変わった船を助けられるようにしたい」


 夜の港は危ない。


 暗い水面。


 濡れた板。


 見えにくい杭。


 だからこそ、灯りを置き、夜番を置き、舟を繋ぐ場所を決める。


「夜に勝手に船を動かす者は、必ず舟番所へ届け出ること。港の中で火を使う場所も決める。油や薪を置く倉は、他の倉から離す」


「火事対策も、港で必要になるってわけね」


 葵が、図の倉庫町を見つめながら呟いた。


「必要だ。町の火事より、港の火事の方が怖いかもしれない」


 帆。


 縄。


 木の船。


 油。


 乾いた薪。


 一度火が回れば、船も倉もまとめて燃える。


 港が焼ければ、牛堀はただの水辺の町に戻ってしまう。


「だから倉は、一つの場所へ集めすぎない。米、塩、魚、油、麻布。種類ごとに場所を分ける」


「なるほど」


 久幹が頷いた。


「一つが燃えても、全てを失わぬようにするのですな」


「ああ。それと、商人の荷を預かるための蔵も増やす」


「預かるための蔵?」


「牛堀へ来た商人が、すぐに荷を全部売り切れなくてもいいようにするんだ」


 俺は、倉の印へ指を置いた。


「荷を預けた者には、何をどれだけ預かったかを書いた証文を渡す。小田の焼印を押した証文なら、府中や江戸でも通るようにする」


「それは便利ですね!」


「重い荷を抱えたまま、ずっと町を歩かなくていいじゃん」


「そう。牛堀へ荷を置き、商人は身軽になって市へ行ける。別の町へ先に行き、後から荷を売ることもできる」


 商いが大きくなれば、荷を持っている者が強いのではない。


 荷を安全に預けられる場所を持つ者が強い。


 牛堀を、そんな港にしたかった。


「殿」


 勘助殿が、少し考えながら口を開いた。


「倉と船着き場を整えれば、風を待つ船も増えましょうな」


「その通りだ」


 俺は頷いた。


 牛堀は、外海へ出る船が無理に急ぐ場所ではない。


 風が悪ければ、船はここで待つ。


 湖や潟の向こうから来た荷は、ここで海船へ積み替える。


 外海から戻った船は、ここで風と波が落ち着くのを待ち、また内側の水路へ入っていく。


「牛堀は、船がただ通り過ぎる場所ではない」


 俺は、皆へはっきりと告げた。


「風を待ち、潮を待ち、船を直し、荷を替え、次の旅へ備える場所にする」


「風待ち港、というですな」


「ああ」


 風を待つ間、船頭は食事をする。


 船を直す。


 帆や綱を買う。


 米や塩、水を補給する。


 商人は荷を売り、次に扱う品を探す。


 そのための宿。


 食事処。


 湯屋。


 馬屋。


 船大工の工房。


 帆や縄、桶、釘を売る店。


 それらが集まれば、風を待つ数日の間にも町へ銭が落ちる。


「最初は、船宿を数軒。それと、船を直す場所を一つ作る」


 俺は続けた。


「船大工、桶屋、綱をなう者、帆を繕う者を集める。牛堀へ来れば、次の航海に必要なものが揃うようにするんだ」


「それは商人も船頭も助かるだろうな」


 由兵衛が腕を組みながら言った。


「わざわざ遠くまで修理に行かなくて済むからな」


「そうだ。そして、船が集まれば市も育つ。市が育てば、職人も集まる」


 人が集まる。


 物が集まる。


 銭が回る。


 だが、それだけでは足りない。


「港の治安は、町の治安より厳しくする」


 俺の言葉に、広間の空気が引き締まった。


「舟番所を置く。入ってくる船と出ていく船、積んでいる荷、船頭の名を帳面に残す」


「密かに敵の者が入ってくるかもしれぬからな」


 霧丸が低く言った。


「ああ。盗賊や間者だけじゃない。荷の取り違えや、盗みを防ぐためにも必要だ」


「でも、調べすぎて商人に嫌がられない?」


 葵が尋ねる。


「だから関税は重くしない。待たせすぎない。帳面も分かりやすくする」


 面倒な港には、誰も来ない。


 だが危ない港にも、誰も来ない。


 早く、安く、安全に。


 その三つを両立させなければならない。


「そして、もう一つ」


 俺は、鹿島の方角へ目を向けた。


「海の漁にも手を出したい」


「海の漁?」


 頼綱殿が、不思議そうに首を傾げた。


「牛堀は湖と水路の港だろ?」


「だから、鹿島の者達に力を借りる」


 鹿島には、海を知る漁師達がいる。


 波の読み方。


 潮の流れ。


 沖へ出る時期。


 魚の群れが来る場所。


 それは、湖や川で舟を操るだけでは分からない。


「いきなり大きな海船を何艘も作るつもりはない」


 俺は先に釘を刺した。


「まずは小さな漁船を数艘。鹿島の漁師に乗ってもらい、こちらからは船大工と荷運びの者を出す」


「何を獲るつもりだ?」


「鰯、鯖、鯵。それに鰹が取れれば最高だな」


 鰯は干せば長く持つ。


 畑の肥料にもなる。


 鯖や鯵は塩にすれば遠くへ運べる。


 鰹は煮て、燻して、干せば兵糧にも高級品にもなる。


「鹿島の浜には蛤や蛸もあるって聞いたよ!」


 葵が、楽しそうに言った。


「ああ。魚だけじゃない。海の幸を牛堀へ集めて、ここで加工する」


 干し棚。


 燻製小屋。


 塩蔵。


 生簀。


 魚を捌く場所。


 港が整えば、それらも増やせる。


「鹿島で獲る。牛堀で加工する。そして府中や江戸、さらに他国へ売る」


 俺は図の港へ、もう一つ印を加えた。


「海の漁は小さく始める。けれど上手くいけば、牛堀の港は湖の魚だけでなく、海の魚も扱う町になる」


「海と湖の魚が、同じ港へ集まるのか」


 霧丸が、感心したように呟いた。


「面白いな」


「面白い、じゃあないさ」


 俺は笑った。


「魚が増えれば、民の食べ物も増える。干魚や塩魚が増えれば、冬や戦の時にも助かる。畑へ回す肥料も増える」


 港は、ただ銭を稼ぐ場所ではない。


 町の食を支え、農村を豊かにし、戦になれば兵糧を運ぶ。


 牛堀を強くする、心臓のような場所だ。


「よし」


 俺は、図を畳みながら言った。


「まずは港の荷揚げ場と倉庫の増設。舟番所と夜番。船宿と修理場。それから鹿島へ使者を送り、漁師達との話を進める」


「承知いたしました」


 勘助殿が、力強く頷いた。


「港の普請に必要な大工、石工、鍛冶屋も集めましょう」


「俺は船大工達と話をしておく」


 皆がそれぞれ動き出そうとする中。


 葵が、静かに俺の隣へ来た。


「港も、町も、どんどん大きくなるね」


「ああ」


「でも、政貞はちゃんと忘れてないよね?」


「何を?」


「人が安心して帰ってこられる場所にするってこと」


 俺は、少しだけ目を見開いた。


 そして、牛堀の図を見つめる。


 倉に市、宿に水路、水車、城。


 そして、港。


 どれも大事だ。


 だが、一番大事なのは。


 そこに住む人が、明日もここで暮らしたいと思えることだ。


「忘れてない」


 俺は、はっきりと答えた。


「だからこそ、便利で、安全な港にする」


 風を待つ船が集まり。


 旅人が宿で休み。


 商人が荷を預け。


 漁師が海から帰り。


 町の者達が、その魚を食べる。


 牛堀は、ただ荷が集まる港ではない。


 多くの人が出会い、働き、そして帰ってくる場所へ、これから少しずつ変わっていくのだ。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

ブックマークや評価をしていただけると励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。