↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら小田氏治の家臣だったので、滅亡の運命を変えます!  作者: 社長
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/117

99話 春季評定その2

「まずは、街を大きくする前に決めなければならないことがある」


 俺は、広間に集まった皆の顔を見渡した。


「今の牛堀は、人が増えて商いも増えている。港も整い始め、農村も少しずつ豊かになってきた」


 半年で二千人。


 今後もこの勢いで人が集まれば、牛堀は今までのような小さな港町ではいられない。


 だが、人が増えることは良いことばかりではない。


 病が流行れば、多くの者が倒れる。


 火事が起これば、町が丸ごと焼ける。


 水や食べ物が足りなければ、民同士で争いが起こる。


 そして治安が悪くなれば、せっかく集まった商人や職人達も去ってしまうだろう。


「これからの牛堀は、ただ商いができる町では駄目だ」


 俺は、広げられた牛堀周辺の図を指差した。


「民が安心して住める町にする。商人が安心して荷を預けられる港にする。そして、戦が起きた時にも簡単には揺らがない町にする」


 皆が、静かに俺の言葉を聞いている。


「そのために、いくつか新しい決まりを作りたい」


「決まり、ですか?」


 勘助殿が尋ねる。


「ああ。まずは水だ」


 俺は、町の北にある井戸と川を示した。


「飲み水を取る場所と、洗濯や汚れた水を流す場所を分ける。井戸の近くに厠を作ることも禁じる」


「なるほど」


 久幹が頷く。


「確かに、井戸の近くが汚れれば水も悪くなりますな」


「それと、市や港には大きな釜を置く。病人が出た時や、腹を下す者が増えた時は、水を沸かして飲むようにする」


「水を沸かすだけで病が減るのか?」


 由兵衛殿が首を傾げた。


「必ず減るとは言えない。でも、何もしないよりはずっといい」


 俺は答える。


「それに、石鹸を作っているんだ。役人、兵、医者、産婆には、食事の前と傷を診る前に手を洗わせる」


「手を洗うのを決まりにするのか?」


「そうだ」


 頼綱殿が、不思議そうな顔をしている。


「戦で怪我をした者が傷から熱を出して死ぬこともあるだろ? 少しでも助かる者を増やしたい」


「……なるほど!」


 頼綱殿は、ゆっくりと頷いた。


「兵だけでなく、民もというわけだな!」


「ああ。兵だけを守っても意味がない」


 次に、俺は町の道へ指を移した。


「町の大通りを少し広げる。市の近くと倉の周りには、火が燃え広がらないよう空いた場所を作る」


「火除け地ですな」


 勘助殿が言った。


「鍛冶場や油を扱う店は、家が密集している場所から少し離す。井戸のそばには、水桶と桶を常に置く。夜回りも増やす」


「火事対策か」


 親父が、低く呟く。


「うむ。町が大きくなればなるほど、火事一つで全てを失うからな」


 木で作られた家。


 油を扱う店。


 藁や薪。


 そして狭い道。


 今の牛堀は、一度大きな火が出れば危ない。


 戦で焼かれる前に、火事で町を失うなど絶対に避けなければならない。


「次に、商いの決まりだ」


 俺は、机の端に置いてあった枡を手に取った。


「これから牛堀で使う枡と秤は、町で定めたものに揃える。勝手に小さな枡を使って米を売ったり、軽い秤で荷を量ったりすることは禁止だ」


「おお、それは良いな」


「商人によって量が違うの、結構面倒だったもんね」


「ああ。小田の焼印が入った枡と秤なら、誰が使っても同じ量になるようにする」


「商人達も、安心して取引ができますな」


 久幹殿が、感心したように頷いた。


「牛堀で量った米は、江戸でも府中でも同じ量。牛堀で書いた証文は、他の町でも信用される」


 それができれば商人は牛堀をただの寄港地ではなく、信用できる取引の場として見るようになるだろう。


「それと、港に入る荷には木札を付ける」


「木札?」


「誰の荷か。何をどれだけ積んでいるか。どこへ送るのか。それを書いておくんだ」


 勘助殿が、少し考え込む。


「荷の取り違えや盗みも減りそうですな」


「そう。あと、米や塩を預けた商人には預かり証を渡す」


「証文を?」


「港の倉に荷を置けば、火事や盗賊から守れる。商人は重い荷を抱えたまま旅をしなくて済む」


「へぇ、いいじゃん。遠くへ行く商人も、牛堀に荷を預けたくなるよ」


「そうなればいいな」


 さらに俺は、米蔵が描かれた場所を指差した。


「町のための蔵も作る。飢饉や洪水の時に、米と塩、味噌、干魚を出せるようにするための蔵だ」


「民へ配るための蔵、ですか」


「そうだ」


 今は金がある。


 米もある。


 だが豊かな時だけを見ていてはいけない。


 不作になった時。


 戦で街道が止まった時。


 疫病で働けなくなった者が出た時。


 その時に助けられるものがなければ、今の発展などすぐに崩れてしまう。


「ただし、何でもただで配るわけではない」


 俺は続けた。


「働ける者には、道の整備や水路の掃除、堤の補修をしてもらう。その働きに応じて、米や銭を渡す」


「なるほど」


 由兵衛が、感心したように頷いた。


「ただ救うだけではなく、町そのものを強くするわけだな」


「ああ」


 民に仕事があれば、町も整う。


 町が整えば、また人が集まる。


 その繰り返しを作りたかった。


「そして最後に」


 俺は、今いる館を見回した。


 狭い。


 皆が集まれば、すぐに身動きが取れなくなる。


 評定を行うにも、兵を集めるにも、町を守るにも足りない。


「城を作る」


 その言葉に、広間が静かになった。


「ようやくか!」


 由兵衛殿が、嬉しそうに声を上げる。


「やっと大将らしい城を作るんだな!」


「ただの立派な城にはしない」


 俺は、首を横に振った。


「これから作る城は、俺達だけが暮らすための城じゃない。町と港を守るための城にする」


 俺は図を広げた。


 牛堀の町。


 港。


 倉。


 市場。


 そして、少し離れた高台。


「城は高台に置く。そこから町と港、川へ続く道を見渡せるようにする」


 城の周囲には堀を掘り、土塁を築く。


 だが城下へ向かう道は、商いの邪魔にならぬよう整える。


 城に兵糧を集めるだけではない。


 町の蔵と城の蔵を分け、どちらかが焼けても全てを失わぬようにする。


「城の中には評定の間、兵の詰所、武具蔵、米蔵を作る。外には職人達が働く場所と、火事の時に民が逃げ込める広場も作る」


「民が城へ逃げ込むのか?」


「敵が来た時だけじゃない。大火事や洪水の時もだ」


 城とは、領主が偉そうに住むための場所ではない。


 最後に民を守る場所でなければならない。


「完成までには、何年もかかるだろう」


 俺は皆へ言った。


「でも、その頃には牛堀の人口を一万、二万へ増やしたい。港には多くの船が入り、町には職人と商人が集まり、子供達が安心して育つようにしたい」


 戦のためだけに町を大きくするのではない。


 誰かから奪うために城を作るのでもない。


 民が暮らし、働き、家族を作り、明日もこの町にいたいと思える。


 そんな場所を作りたかった。


 だからこそ、ここから始める。


 牛堀はただの港町から人が集まり、商いが育ち、民が安心して暮らせる新しい町へと、少しずつ姿を変えていくのだ。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

ブックマークや評価をしていただけると励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。