地下工業都市
地下空間の拡張は、想像以上の速度で進んでいた。
横穴トンネルを中心に上下左右へ。
巨大な空洞が、区画ごとに少しずつ広がっていく。
私は完成途中の地下空間を見上げながら、腕を組んだ。
「……ほんとに都市ね」
文官が苦笑する。
「まさか山の中にこれほどの空間を作るとは」
元はただのトンネル。
それが今では――
地下都市の入口になっていた。
私は設計図を広げる。
地下構造の全体図。
「まず地下」
私は指を置いた。
「ここ」
一番下の層。地下深く。
「貯水タンク」
地下水脈を利用した巨大貯水施設。
井戸から汲み上げた水をここへ集める。
飲料水。工業用水。そして万一の備蓄。
文官が頷く。
「水があれば都市は維持できます」
私は続けた。
「一階部分」
地下都市の中心。
区画ごとの巨大空間。
ここには――工房。
溶鉱炉。組立工場。資材倉庫。
鉄鉱石。石炭。レンガ。
各種材料。
そして生産ライン。
私は少し笑った。
「完全な工業地帯」
文官が言う。
「まさしく工業都市です」
私はさらに上の図面を見る。
「二階部分」
ここは生産とは別。
作業員の休憩場所。
食堂。簡易宿舎。そして居住区。
ただ地下では息苦しい。
だから私はある工夫をしていた。
山の側面。そこに横穴を掘る。
外壁部分に窓を作る。
すると――自然光が入る。
文官が感心して言った。
「地下なのに……明るい」
私は頷いた。
「人は光が無いと壊れるからね」
完全地下では長く生活できない。
だから光を入れる。
風も通す。空調もある。私は図面を畳んだ。
「これで三層」
地下水層。工業層。生活層。
文官は静かに言った。
「……本当に都市ですね」
私は少しだけ笑う。
「でしょ?」
山の中。外から見ればただの山。
だがその内部では――
巨大な都市が生まれ始めている。
私は空間の奥を見る。
そこにはまだ暗い空間が広がっている。
そこもいずれ。工場。倉庫。線路。居住区。
様々な施設で埋まる。
私は小さく呟いた。
「地下工業都市」
そして笑った。
「悪くない名前ね」
まだ都市の完成度は半分にも満たない。
それでも、この山の中には確実に――
一つの文明が生まれ始めていた。




