最初の重機
鉄鉱石が届いた。
その事実だけで、拠点の空気は一気に変わった。
私は溶鉱炉の前に立っていた。
巨大な炉。レンガで組み上げた炉壁。
内部にはコークスと鉄鉱石が投入されている。
試運転。初めての鉄精錬だ。
「温度は?」
「問題ありません!」
開発部の職人が答える。
炉の口から熱気が吹き出す。
赤く燃える炉。
私は腕を組んで見守った。
しばらくして、炉の下から溶けた金属が流れ出した。
「……出ました!」
私は小さく笑った。
「成功ね」
溶けた鉄。それは型へ流し込まれていく。
鉄塊。インゴット。
この世界で初めて、この拠点で精錬された鉄だ。
私はその鉄を見ながら呟いた。
「やっと始まるわね」
鉄があれば、出来る事は一気に増える。
私は机の上の設計図を見る。
「カーデン・ロイド」
小型履帯車。
前世では豆戦車と呼ばれたものだ。
だがここでは――重機のベースになる。
私は設計図を指した。
「これを作る」
職人達が頷く。
「了解です」
履帯。フレーム。エンジン。
全部、この拠点で作る。
数日後。ついにそれは完成した。
私は工房の前に立つ。
目の前には、小さな履帯車。
リベットのつぎはぎ感はあるけど。
カーデン・ロイド型。
だが武装はない。
代わりに――前面にショベル。
掘削用アームが付いている。
私は笑った。
「ショベルカーね」
もちろん本格的なものではない。
車両の運転。ショベル操作。
それぞれ別の人間が操作する。
一人乗りはまだ難しい。
機構が複雑すぎる。
この世界では――初の重機だ。
私は履帯車を軽く叩いた。
「小さいけど」
そして笑う。
「革命よ」
この機械があれば、トンネル工事、露天掘り、土木作業。
全部が加速する。
私は文官を見る。
「予定は?」
文官が答える。
「三両です」
私は頷く。
「そう」
三両製造。
一両はトンネル工事。
一両は石炭露天掘り。
そしてもう一両は――試作テストを行う為の予備。
私は地図を見る。これは始まりに過ぎない。
私は呟く。
「車両はどんどん増やす」
ブルドーザー。土砂整地。運搬用トラック。
そして農業用車両。
全部この車体をベースに改造出来る。
私は工房を見る。
そこでは別の装置も動いていた。
人造石油設備。石炭から燃料を作る装置。
実験レベルだったものが、今ではかなり大きくなっている。
私は笑った。
「実用段階ね」
消費量に合わせて設備は増設。
燃料は確保出来る。
そしてもう一つは、合成ゴム。
こちらも少量ながら生産出来るようになった。
パッキン。ベルト。タイヤ。
機械には必須だ。
私は拠点を見渡す。
レンガ工房。溶鉱炉。精錬設備。燃料工場。
数ヶ月前はただの草原だった。
今は違う。私は空を見上げた。
そして笑った。
「一気に」
小さく呟く。
「産業革命よ」




