空からの脅威
昼過ぎ。
見張りの兵が慌てた様子で執務室に飛び込んできた。
「お嬢様!」
私は顔を上げる。
「どうしたの?」
兵は少し興奮した様子で言った。
「荷馬車隊です!遠くで確認しました!」
私は思わず立ち上がった。
「来たのね」
ついに。ゆきちゃんの領地からの荷馬車隊。
鉄鉱石を積んだ隊列だ。
私は外へ出た。
遠くの草原。
地平線の向こうに、小さな黒い点が並んでいる。
荷馬車。護衛。かなりの規模の隊列だ。
私は小さく呟いた。
「いよいよね」
待ちに待った鉄鉱石。
これが来れば。
全部が動き出す。
私は腕を組みながら、その隊列を眺めた。
やがて荷馬車隊は拠点へ到着した。
土埃を上げながら、次々と荷馬車が止まる。
「……二十八台」
文官が数を確認する。
少しだけ様子が違った。
私は眉をひそめる。
「ん?」
荷馬車の一台。車体がかなり壊れている。
車輪も歪み、側板も割れている。
私は指を差した。
「どうしたの?」
護衛の男が苦笑した。
「途中でやられまして魔物です」
私は思わず聞き返す。
「魔物?」
男は頷く。
「ウルフ系です」
私は少し驚いた。
「それでこの状態?」
男は肩をすくめる。
「かなりやられましたが仮修理でここまで来ました」
文官が荷馬車を確認する。
「……これはもう使えませんな」
私は頷いた。
「ここで廃棄ね」
鉄鉱石は無事。それだけでも十分だ。
私は少し離れた場所で、護衛達の会話を聞いていた。
「ウルフ系の魔物にやられちまって」
「やっぱあいつら速いよな」
「すばしっこいからな」
「まあでも」
一人の男が笑った。
「これぐらいで済んで良かったな」
別の男も頷く。
「そうだな」
「空の魔物が来なくて良かったぜ」
私は一瞬止まった。
「……ん?」
今。何て言った?
私は思わず振り向いた。
「空?」
男達は普通に話を続けている。
「そうそう」
「上から来るやつ」
「荷馬車狙われたら終わりだ」
私は想像した。
空。荷馬車。輸送隊。
もし空から襲われたら――
「……」
私は顔を引きつらせた。
「げっ」
対空。対空火器。それが必要になる。
私は頭の中で計算する。
機関砲。高射機関銃。対空砲。
どれがいいか。
その時、護衛の男が笑った。
「まあ小さい奴なら」
「弓とか魔法でどうにかなるけどな」
私は少し安心した。
「……そ、そう」
それならまだ何とかなる。
次の言葉で私は固まった。
「まあ」
別の男が笑いながら言った。
「ドラゴン来たら終わりだけどな」
私は思わず振り向いた。
「……は?」
男達は普通に笑っている。
「ドラゴンなんて滅多に来ないけどよ」
「でも出たら街一つ終わるって話だぜ」
私はゆっくり顔を引きつらせた。
「ド……」
そして小さく呟いた。
「ドラゴン?」
あのドラゴン?ファンタジーの?
私は空を見上げた。
広い空。雲がゆっくり流れている。
そして小さく呟く。
「……」
私は文官を見る。
文官も困った顔をしている。
私はため息を吐いた。
「高射砲」
そして小さく呟いた。
「いつか作らなきゃ」
文官達とゆきちゃんの荷馬車隊の護衛達の話を聞きながら、私は心の中で、静かにドン引きしていた。




