動き出す拠点
領都から荷馬車隊が到着したのは、昼を少し過ぎた頃だった。
草原の拠点に、砂煙を上げながら近づいてくる数台の荷馬車。
見張りの兵が声を上げる。
「領都の馬車です!」
私はテントの外へ出た。
「やっと来たわね」
荷馬車が止まり、積み荷が降ろされていく。
木箱。工具。資材。
そして――
私は一つの大きな箱を見て笑った。
「来た来た」
文官が箱の横の文字を確認する。
「固定式無線機……二台」
私は腕を組む。
「よし」
……と言いたい所だけど。
私は周囲を見渡した。
草原。テント。仮設の机。
そして作業員。
私はため息を吐いた。
「……建物ないのよね」
文官が苦笑する。
「ええ」
固定式無線機。
本来は建物の中に設置するものだ。
通信室。機械室。
そういう場所が必要になる。
ここにはまだ何も無い。
私は肩をすくめた。
「仕方ないわ」
箱を指す。
「一台はそのまま帝国側へ」
文官が頷く。
「ヴァイスベルク伯領ですね」
「そう」
ゆきちゃんの所だ。
どうせ建物はまだ向こうにも無いだろう。
それでも機材は早く届けておいた方がいい。
私は続けた。
「向こうも開発進めてるだろうし通信拠点を作るはず」
文官は書き込む。
「すぐに準備させます」
そして、もう一つ。
荷馬車から降りてきた人達がいた。
私は目を細める。
「あれ?」
見覚えのある顔。領都の工房の人達だ。
私は近づいた。
「あなた達……」
一人の男が帽子を取って頭を下げた。
「お嬢様」
私は首を傾げる。
「どうしてここに?」
男は笑った。
「領都の工房からです」
「人も育ってきましたのでこちらにも必要だろうと」
私は思わず笑った。
「助かる!」
文官も嬉しそうに頷く。
領都の工房。電灯。工具。発電機。
様々な物を作っている場所だ。
そこから人が来た。
つまり――ここでも製造が出来る。
私はすぐに地面に簡単な図を描いた。
「ここに工房!簡易でもいい!屋根だけでも作りましょう」
男達が頷く。
「お任せください」
そして、もう一つ。
別の荷馬車から人が降りてくる。
少し痩せた男。日焼けした農民。
そして、がっしりした体の男。
私は小さく頷いた。
「経済奴隷ね」
文官が説明する。
「領内から集めました」
私は彼らを見る。不安そうな顔。
逃げる場所はない。
私はゆっくり言った。
「ここで働いてもらいます」
男達が頭を下げる。
「農民、畜産、大工、鉱夫」
私は一人ずつ見ていく。
「得意な仕事をしてもらうわ」
ここはまだ何も無いがだからこそ。
何でも出来る。
私は指示を出す。
「農民は畑の準備、畜産は家畜小屋、大工は建物ら鉱夫は採掘準備」
男達はそれぞれ頷いた。
文官が静かに言う。
「……動き始めましたな」
私は草原を見る。
数日前までは本当に何もなかった。
今は違う。テント。人。資材。
少しずつだが――
拠点になり始めている。
私は小さく笑った。
「やっとね」
その時だった。遠くで声が上がった。
「お嬢様!」
私は振り向く。
一人の作業員が慌てて走ってくる。
「どうしたの?」
男は息を切らしながら言った。
「井戸です!」
「井戸?」
私は首を傾げる。
男は続けた。
「水が出ました!」
私は一瞬止まる。
そして、ゆっくり笑った。
どうやらこの草原は――
本当に少しずつ動き始めているらしい。




