友からの資金
拠点での作業が始まって数日。
草原の仮設拠点は、相変わらず忙しいような、そうでもないような微妙な空気だった。
計測。井戸掘り。石炭分布の確認。
やる事はあるが、人も設備も足りない。
つまり――出来る事は限られている。
そんな時だった。
テントの外から文官が少し慌てた様子で入ってきた。
「お嬢様」
「どうしたの?」
「早馬が到着しております」
私は首を傾げた。
「早馬?」
「はい」
「ヴァイスベルク伯領からの使者です」
私は思わず眉を上げた。
「……え?」
ゆきちゃんから?私は腕を組む。
「無線機あるのに?」
わざわざ早馬?何の話かしら。
「外で待機しております」
「通して」
文官が外へ出る。
しばらくして、一人の男が入ってきた。
帝国側の装束。姿勢は真っ直ぐ。
そしてやたらと真面目そうだ。
男はきっちりと礼をした。
「失礼致します」
「我が主人より、直接お渡しする様に厳命を受け参上致しました」
……堅い。私は思わず小さく呟いた。
随分と真面目で堅苦しい方を使者に寄越したわね……
男は姿勢を崩さない。
「こちらでございます」
差し出された封筒。
私は受け取る。
「どうぞお確かめいただければと存じます」
私は封を開いた。中から紙が一枚。
そしてもう一つ小さな袋。
私はまず紙を見る。
そして思わず吹き出しそうになった。
『やっほー!まきちゃん!』
『無線機代よ!』
『お金分割で払うわね!』
私は思わず額を押さえた。
「……ゆきちゃん」
そして小さく笑った。
「ありがとう……」
私は袋を開けると中には不規則な金の粒。かなりの量だ。
私は使者に向かって言う。
「確かに受け取りました」
男はすぐに頭を下げた。
「御意!我が主人に必ずお伝え致します」
そして一礼すると、すぐに外へ出ていった。
テントの中に静けさが戻る。
隣で文官が不思議そうな顔をしていた。
「お嬢様?一体何を?」
私は袋を机に置いた。
「見てみて」
文官が袋を開ける。
そして固まった。
「……はぁ?これは……!?」
私は笑った。
「無線機代だってそれも分割で」
文官は目を見開く。
「こんなに……?」
私は手紙を渡した。
「これも見て」
文官は紙を読むとしばらくして
ゆっくり頷いた。
「……確かに理にかなっています」
紙には簡単な計算が書かれていた。
無線機の材料費。加工費。
運搬費。そして推定利益。
かなり細かい。
文官は感心したように言った。
「その……随分としっかりしたコスト計算です」
そして私を見る。
「お嬢様のお友達はさぞしっかりした方なのですね」
私は小さく笑った。
「ええ」
そして呟く。
「昔からそうなのよ」
私は袋の不規則な金の粒を見る。
ふぅ、と息を吐く。
「ゆきちゃん」
私は心の中で呟いた。
これなら文句ないでしょ?ちゃんと払う。
対等。そういう意味のお金だ。
私は袋を閉じた。
「でも」
そして笑う。
「ありがたく使わせてもらうわ」
私は文官を見る。
「文官さん」
「はい」
「このお金」
私は地図を指した。
「ここに使う」
文官は頷く。
「開発資金ですね」
私はさらに言う。
「経済奴隷を探して」
文官が少し驚く。
「どのような?」
私は指を折って数える。
「農民、畜産農家、大工、鉱夫」
そして周囲の草原を見る。
「ここ」
私は苦笑した。
「何も無さすぎるのよ」
住む人。作る人。掘る人。全部必要だ。
文官は深く頷いた。
「承知しました。領内で手配致します」
私はテントの外を見る。
草原。風。そして静かな拠点。
少しだけ前に進んだ気がした。
私は小さく呟く。
「これで」
そして笑った。
「少しだけ、開発が進むわね」




