伯爵同士
それからしばらくして。
草原の向こうから、新たな馬車隊が近づいて来た。
護衛の数も多い。
旗は掲げていないが、規模を見ればすぐに分かる。
領主の隊列だ。
私は目を細めた。
「……来たわね」
ゆきちゃんも同じ方向を見ている。
しかしそこで私達は同時に首を傾げた。
「……あれ?」
私は小さく呟いた。
「普通の馬車?」
領主が乗る馬車ではない。
豪華な装飾も無い。
護衛は多いが、馬車自体はごく普通のものだ。
ゆきちゃんも同じ事を思ったらしい。
「ほんとだ」
私は少し考える。……おかしい。
父の馬車は、もっと豪華なはずだ。
しかも私は、つい最近改良までしている。
まあ普通の馬車も足回りは改良してあるけど。
それでも。
わざわざ普通の馬車を使う理由が分からない。やがて馬車隊はゆっくりと止まった。
護衛達の緊張が一段上がる。
そして馬車の扉が開く。
そこから降りてきたのは――
「……お父様」
レオンハルト・アルフェルト伯。
間違いない。私の父だ。
反対側でも、同じように一人の男性が馬車から降りてきた。
落ち着いた佇まい。
帝国貴族の装い。
ゆきちゃんが小さく呟く。
「……お父様」
どうやら、あちらも本物らしい。
二人の伯爵。草原の上で向かい合う。
護衛達は静かに距離を取った。
その瞬間、二人の目が合った。
そして先に口を開いたのは父だった。
「久しいな」
落ち着いた声。
「フリードリヒ・ヴァイスベルク伯」
ゆきちゃんの父も、すぐに答える。
「こちらこそ」
少しだけ笑う。
「レオンハルト・アルフェルト伯」
私はゆきちゃんを見る。
ゆきちゃんも私を見る。
「「……え?」」
完全に同じ顔をしていた。
知り合い?
いやそれどころじゃない。
この呼び方。
明らかに――昔からの関係。
父達は少しだけ周囲を見回した。
草原。護衛。国境。
そして父が言う。
「ここでは何だな」
フリードリヒ伯も頷く。
「そうですね」
そして、ゆきちゃんの方をちらりと見る。
少しだけ笑った。
「そうだ」
「娘の馬車の中で話しましょうか」
父も頷く。
「そうだな」
伯爵同士が歩き出す。
その行き先は――
ゆきちゃんの移動式通信馬車だった。
私は小さく呟いた。
「……え」
ゆきちゃんも同じ声を出す。
「……え」
どうやら。私達が思っている以上に。
話は、深そうだった。




