雷鳴
レオンハルト伯とフリードリヒ伯が、ゆきちゃんの馬車へ向かって歩き出した、その時だった。
「魔物!」
護衛の騎士が叫ぶ。草原の向こう。
低い丘の影から、小さな影が次々と現れた。
緑色の肌。粗末な槍。
「ゴブリンです!」
十数体ほどの群れ。
騎士達がすぐに前へ出る。
「迎撃します!」
剣が抜かれ、弓兵が弦を引く。
私はその様子を見ながら、小さく息を吐いた。
距離は……三十メートルほど。
十分だ。
私はポシェットに手を入れた。
取り出す。
九四式拳銃。
この世界で作った、私の切り札。
私は銃を構えた。
その時、横から声が聞こえる。
「危ないわよ?」
ゆきちゃんだった。
私はちらりと横を見る。
「大丈夫」
そして言う。
「見てて」
私は照準を合わせた。
パン!
乾いた音が草原に響く。
先頭のゴブリンが、その場で倒れた。
騎士達が一斉に振り向く。
「なっ!?」
私は続けて撃つ。
パン!
パン!
ゴブリンが次々と倒れる。
だが、その時。
横から、また別の音が響いた。
パン!
私は思わず横を見る。
ゆきちゃんも、何かを構えている。
そしてもう一発。
パン!
ゴブリンが倒れる。
……え?
私は一瞬、思考が止まった。
今の音。今の倒れ方。
まさか。私は思わず叫んだ。
「ちょっと待って!」
ゆきちゃんも撃つのを止める。
ゴブリン達は既に全滅していた。
静寂。草原に風が吹く。
私はゆきちゃんを見る。
ゆきちゃんもこちらを見ている。
そして私はゆきちゃんの手を見る。
そこにあるのは――拳銃。
形は違うが間違いない。
私は呆然と呟いた。
「……銃?」
ゆきちゃんも同じ顔をしていた。
「……銃よね?」
数秒の沈黙。
そして私達は同時に言った。
「「作ったの!?」」
周囲の騎士達は完全に置いていかれていた。
父達も無言でこちらを見ている。
だが私達は、それどころではない。
私はゆきちゃんの拳銃を指差す。
「それ何!?」
ゆきちゃんも私の拳銃を見る。
「そっちこそ何よ!」
そして私は言う。
「九四式拳銃!」
ゆきちゃんが叫ぶ。
「ベレッタM1934!」
再び沈黙。そして。
「「あんたも作ったの!?」」
草原に、二人の叫び声が響いた。
その横で、二人の伯爵は静かに倒れた魔物を見ていた。
胸に開いた小さな穴。
そして草原に残る火薬の匂い。
どうやら娘達は、自分達の想像より遥かに危険な物を作っていたらしい。




