曖昧国境での再会
今朝は、いつもより早く目が覚めてしまった。
まだ空気は冷たく、草原には薄く朝霧が残っている。
私は寝台の上でしばらく天井を見つめた。
そして小さく笑う。
「……眠れないわね」
仕方ない。ワクワクが止まらないのだから。
今日は――ゆきちゃんと会う日だ。
私は身支度を整え、野営地の外へ出た。
朝の空気は澄んでいて、遠くの丘までよく見える。
「さて」
私は文官に声を掛けた。
「この辺りの観測は任せるわ」
文官がすぐに頷く。
「承知しました」
私は続けた。
「私は少し曖昧国境線まで行ってくる」
護衛達がすぐに動き出した。
結局、一部の文官と護衛を連れて移動する事になった。
草原をゆっくり進み、小高い丘へ向かう。
そこは昨日確認した場所。
見晴らしがいい。周囲の草原もよく見える。
私は周囲を見渡した。
「ここね」
そして護衛達に言う。
「ここで待機します」
騎士達が少し戸惑う。
「待機……ですか?」
私は頷いた。
「遠い友人を待ちます」
その言葉に、周囲がざわついた。
護衛達は顔を見合わせる。無理もない。
ここは国境付近。しかも曖昧国境線。
そして――相手は他国の領地の人間。
警戒するのは当然だ。だが私は気にしない。
私は草原を見ながら言った。
「大丈夫よ」
「心配はいらない」
護衛達は少し戸惑いながらも周囲の警戒を強める。そして私は空を見上げた。
後は――待つだけ。
私は念の為、地面へ視線を落とした。
「……分析」
スキルを使う。地下構造が浮かび上がる。
土。岩盤。そして――黒い層。石炭。
それだけではない。私は少し眉を上げた。
「ふむふむ」
さらに奥に別の反応。金属。
私は小さく呟いた。
「……鉄鉱石かしら?」
恐らくそうだ。もしそうなら。
この辺り一帯は――地下資源の宝庫。
石炭。鉄。
もし両方あるならこの土地の価値は一気に跳ね上がる。
私は苦笑した。
「……面白い場所ね」
そして時間が過ぎていく。
一時間。二時間。
空はすっかり高くなっていた。
その時だった。護衛の一人が声を上げた。
「お嬢様!」
私は顔を上げる。
「どうしたの?」
騎士が遠くを指差す。
「あちら!」
私は目を細めた。
遠くの草原。そこに――小さな影。
いや影がいくつも。馬車の列。
そして護衛。私は思わず立ち上がった。
「……来た」
間違いない。
あの隊列。ゆきちゃんの一行だ。
周囲の護衛達がざわつき始める。
「他国の隊列です」
「警戒を」
「距離を取れ」
騎士達がすぐに配置を変える。
当然だ。ここは国境。
しかも相手は他国の貴族。
外交問題になってもおかしくない。
私は静かにその光景を見つめていた。
遠くの馬車は、ゆっくりこちらへ近づいてくる。
胸が少し高鳴る。
あの馬車の中に――ゆきちゃんがいる。
前世では何度も会っていた。
この世界では初めて私は小さく呟いた。
「……やっとね」
長い距離。長い時間。
そして二つの領地。
二つの戦記。それが今――
曖昧国境線の上で、交わろうとしていた。




