地図という武器
測量器の設計は、あっさり終わった。
スキルを使い図面を起こす。
三脚。回転台。水平器。照準筒。
角度目盛り。
簡易だが、この世界には存在しない計測器。
前世で言うところの測量機。
私は満足して頷いた。
「よし、完成」
図面をまとめ、文官へ渡す。
「これを鍛冶工房と木工工房へ」
「承知しました」
製作自体は難しくないが精密さは必要だが、構造は単純。
職人達なら問題なく作れる。
……問題はそこではない。
私は椅子に座り込み、額に手を当てた。
「人手ね……」
測量という作業は、とにかく人が要る。
機材を運ぶ者。距離を測る者。
杭を打つ者。記録係。計算係。
領地全体を測るとなれば、相当な人数になる。
今の領地人員では足りない。
「はぁ……」
私はため息を吐く。余り使いたくない手。
だが、現実的な手段。経済奴隷の増員。
前世の感覚では、どうしても抵抗がある。
合理的なのは理解している。
だが、納得とは別だ。
「……まずはお父様ね」
私は立ち上がった。
領主館の廊下を歩き、執務室の扉を叩く。
「入りなさい」
中ではお父様が書類を読んでいた。
私は机の前に立つ。
「今日は相談があります」
「ほう?」
私は机に図面を広げた。
「これは?」
「測量器です」
お父様は眉を上げる。
「測量?」
私は頷く。
「正確な地図を作ります」
お父様は黙って図面を見る。
私は説明を続けた。
「今の地図は大雑把すぎます」
山の位置。川の流れ。村の距離。
どれも曖昧。物流にも、防衛にも向かない。
私は地図の上に指を置く。
「もし正確な地図があれば」
道路整備。水道計画。鉱山開発。魔物討伐。
全て効率化出来る。
さらに私は少し声を落とした。
「戦争になった場合」
お父様の目が鋭くなる。
「軍の移動速度は大きく変わります」
沈黙。数秒。
やがてお父様は小さく頷いた。
「……なるほど」
理解は早い。やはり領主だ。
「必要人数は?」
私は正直に答える。
「多いです」
「どれくらいだ?」
「今の倍は」
お父様は椅子にもたれた。
「つまり奴隷か」
私は頷いた。
「……はい」
少しだけ沈黙。
やがて、お父様は言う。
「分かった」
私は顔を上げる。
「増員を手配しよう」
約束を取り付けた。
嬉しいがだが同時に、胸の奥が少し重い。
執務室を出た後、私は小さく息を吐いた。
「……複雑」
この世界では、普通。常識。合理的。
それは分かっている。
私の中では、まだ違う。
前世の感覚が消えない。
慣れろと言われても、すぐには慣れない。
廊下を歩きながら、私は天井を見上げた。
「はぁ……」
ため息が漏れる。
測量は必要だし地図は力だ。
領地を守る為にも。
将来の為にも。
私は気持ちを切り替えた。
「まずは測量機の完成ね」
一歩ずつ進む。
その第一歩はこの領地を、正確に測る事から始まる。




