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転生エンジニア、隣国の友人と産業革命を始めます  作者:


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国境を越えた声

今の所、何も来ない。

……まだ手元に届いていないのかしら?

私は無線機の前に座ったまま、静かに耳を澄ませていた。


夜の三の刻。


周波数は合わせてある。

魔石バッテリーも安定。

理論上、問題は無い。

組立が出来ないとは考え難い。


ゆきちゃんなら、あの説明書を見れば理解出来るはず。


荷馬車の遅れ。組立時間。調整。


それらを考えれば、もう少し掛かる可能性もある。


「……また明日、この時間に向き合うか」


私は小さく息を吐いた。


その時だった。


「……ざぁ……ざぁ……」


ノイズ。私は椅子から身を乗り出す。


「来た?」


ダイヤルを微調整。

すると、断続的に音が変わる。


そしてはっきりと聞こえた。


「……フ、マル、チ」


「ヒ、フタ、ルハチ」


「ヒトフタマルハチ」


私は思わず笑った。


「聞こえてる!」


軍式の確認信号。間違いない。

私はマイク代わりの送信口へ顔を寄せる。


「こちらフジ、受信良好!」


少しの沈黙。そしてはっきりとした声。


「あら!こちらさくら」


私は思わず吹き出した。


「受信状況完璧!流石ね、ゆきちゃん!」


向こうも笑っているのが分かる。


「まきちゃんこそ!懐中電灯のパッケージの考え良かったわよ!」


「さくら印もよ!」


一瞬、二人とも黙る。そして同時に言った。


「まさか、二人で転生とは」


私は椅子に深く座り直した。


「私もびっくりよ。こんな事になるとは」


向こうも小さく笑う。


「まあそうよね」


そして、ゆきちゃんが聞いた。


「で?どう?」


「今の所、内政頑張ってるわ」


「私もよ」


声が少し弾む。


「稼がないとね」


「ほんとそれ」


私達は笑った。


この世界は何もかもが曖昧。


技術水準。制度。資源。全て手探り。


「何せ、何もかも曖昧な世界でやりづらいからさ」


「確かに」


ゆきちゃんも同意する。


「私もその辺で苦労してる」


「私もよ」


そこからは、お互いの近況報告。


私の領地。電灯。水道。発電。


ゆきちゃんの領地。


石鹸。クリーム。油精製。


そして南の国の昔話の分断された歴史。

国境の事情に向こうも驚いていた。


「なるほどね……」


ゆきちゃんが小さく言う。


「つまり、私達は元同じ国の土地にいるって事で合ってるわよね?」


「そうなるわね」


電波の向こうで、少し沈黙。

やがて彼女は笑った。


「面白いじゃない」


私も笑う。


「ほんとね」


通信は長く続けない。

魔石出力もまだ安定していない。

周波数もまだ不安定。


今日はここまで。


「また明日」


「同じ時間で」


私達は確認する。


夜の三の刻。通信時間。情報交換。

私は送信機を止めた。


部屋は静かになる。


もう孤独ではない。国境の向こう。


同じ世界。

同じ記憶。

同じ思考。


私は小さく呟いた。


そしてこの夜から、私達は毎日この時間に通信する。


……いや。


おしゃべりではない。情報交換だ。

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