偵察命令
王都。中央庁舎。
会議室には重苦しい空気が漂っていた。
レーツェルの報告。
帰還した兵士達の証言。
旧南国は帝国軍と通じているという噂。
全てを並べても、決定的な証拠は何一つ無かった。
軍務大臣が机を軽く叩く。
「結局、確証が無い」
誰も反論出来ない。
その時、老人が静かに口を開いた。
「ならば、自ら見ればよい」
会議室の視線が老人へ集まる。
「見てくる……という事ですか」
老人はゆっくり頷いた。
「噂だけを集めても答えは出ぬ。実際に旧南国へ入り、自分の目で確認するしかあるまい」
軍務大臣は腕を組んだ。
「しかし軍を送れば警戒される」
情報官が一歩前へ出る。
「商人に偽装しては如何でしょう?最近でも旧南国へ向かう商隊は少なくありません。多少人数が増えても不自然には映らないかと」
老人も頷く。
「商人、旅人、行商、別々に動けば目立たぬ」
軍務大臣は立ち上がった。
「決定だ」
「偵察隊を派遣する。身分は商人。目的は旧南国の実態調査、鉄道、通信、兵力、工場の全て確認せよ」
「はっ!」
数日後、王都南門。
十数台の商隊が、それぞれ時間をずらしながら静かに南へ向け出発した。
誰も知らない。
その行動が、既に旧南国へ知られている事を。
旧南国国境の監視所。
「異常ありません」
監視兵が双眼鏡を下ろした。
その隣ではロイド偵察車が待機している。
隊長は地図へ目を落としていた。
その時。
「隊長」
「どうした」
「街道です」
双眼鏡を受け取る。
街道の先に商隊が見えた。
荷馬車。護衛。旅人。
どこにでもある光景だった。
しかし隊長は眉をひそめる。
「荷物が少ない」
護衛が多い。
しかも歩幅が揃っている。
視線の配り方。間隔。周囲への警戒。
商人ではない?訓練された兵士だ。
隊長は小さく笑った。
「やっと来たか」
通信兵が受話器を取る。
「領都へ。こちら国境監視所。王都方面より不審商隊を確認。監視を開始します」
『了解!距離を保ち、そのまま追跡せよ』
「了解」
ロイド偵察車のエンジンが静かに動き出す。
街道から少し離れた位置を並走しながら。
商隊を見失わない距離を保つ。
隊長は呟く。
「商人なら荷物を見る。兵士は地形を見る」
双眼鏡の先では、男達が周囲の地形を何度も確認していた。
もう十分だった。




