変わり始めた日常
領都、朝の市場。
「いらっしゃい!」
元気な声が響く。
市場には多くの人が集まり、以前と変わらない……いや、それ以上の賑わいを見せていた。
野菜。果物。干し肉。布地。
様々な商品が並ぶ。
「最近は品切れが少なくなったね」
買い物客の女性が笑う。
店主も頷いた。
「鉄道のお陰らしいよ」
「毎日荷物が届くようになった」
女性は感心したように周囲を見渡す。
「あんな大騒ぎだったのにねぇ」
反乱。領都制圧。最初は誰もが不安だった。
戦になる。徴発される。
そんな噂ばかりだった。
しかし実際は違った。
「税も前と変わらないし」
「徴発も無い」
「夜も治安隊が見回ってくれる」
市場のあちこちで似たような話が聞こえてくる。
その時。
「失礼します」
治安隊が市場を巡回してきた。
以前の兵士とは違う。
住民へ笑顔で挨拶をしている。
「おはようございます」
「ああ、お疲れさん」
商人も気軽に声を掛ける。
恐れる様子は無い。
「最近は盗難も減ったね」
「見回りが増えたからな」
そんな会話が自然と交わされる。
市場の端では子供達が走り回っていた。
「ロイドだ!」
一台のロイドがゆっくりと市場の横を通り過ぎる。荷台には荷物が積まれている。
子供達が目を輝かせる。
「速い!」
「また来た!」
護衛兵が笑いながら手を振る。
子供達も元気に振り返した。
その様子を年配の男性が眺める。
「変わったなぁ」
隣にいた老人も頷く。
「最初は領主様の娘が反乱なんて聞いて驚いたが」
「今じゃ前より暮らしやすい」
「確かに」
老人は遠くを見た。
駅が見える。貨物が積み込まれ。
人が忙しく働いている。
「仕事も増えた。若い連中も働き口が出来たしな」
その時、役場の前に一枚の張り紙が貼られる。
『治安隊志願者募集』
『機械整備員募集』
『鉄道保守員募集』
人々が集まる。
「まだ募集してるのか」
「受けてみようかな」
若者達が話し始める。
「俺は鉄道がいい」
「俺はロイドを運転してみたい」
夢を語る声まで聞こえてきた。
市場を歩いていた女性が小さく笑う。
「何だか。未来が動き始めたみたいね」
誰も否定しなかった。
反乱。制圧。不安。
そんな言葉は、少しずつ日常の中へ溶け始めている。人々が今見ているのは、新しい仕事、新しい道。
そして、新しい暮らしだった。
領主の娘が始めた変化は、戦場ではなく。
まず、人々の日常から少しずつ広がり始めていた。




