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転生エンジニア、隣国の友人と産業革命を始めます  作者:


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揺さぶり

私は王都へ返したレーツェルさんの事を考えていた。


「うーん……」


副官が首を傾げる。


「どうされました?」


「レーツェルさんを戻したけど」


私は地図を眺めながら答えた。


「恐らく信用はされないでしょうね」


副官も頷く。


「調略されたと疑われるかもしれません」


「そう」


私は苦笑する。


「あるいは私達の事を、まだ地方反乱程度にしか見ていないか」


どちらにしても王都はすぐには動かない。

いや動けない。情報が足りないから。


その時、一つの考えが浮かんだ。


「なら」


副官が私を見る。

私は笑った。


「もっと悩んでもらいましょうか」


「……と言いますと?」


私は立ち上がる。


「残りの捕虜も返します」


部屋が静まり返る。

通信士が思わず聞き返す。


「え?」


「宜しいのでしょうか?」


「ええ」


私は頷く。


「全員返すわ」


副官が不思議そうな顔をする。


「理由を伺っても?」


私は地図の上へ指を置いた。


王国。帝国。旧南国。三つの勢力。


「帰る途中」


「はい」


「兵達に、わざと噂を聞かせるの」


「噂?」


私は笑う。


「そう」


そして静かに言った。


「私達は帝国軍と通じている」


部屋中が固まる。


「えっ!?」


副官が思わず声を上げる。


「どういう事ですか?」


私は説明する。


「王国は今、一番欲しいのは情報」


「でも情報が多過ぎても困る」


副官が頷く。

私は続ける。


「そこへ帝国軍と繋がっている!そんな噂が入れば?」


通信士が息を呑む。


「疑い始めますね」


「そう」


私は笑った。


「本当か?罠か?誰が繋がっている?」


「どこまで協力している?」


考え始めた時点で相手は止まる。

副官が感心したように頷く。


「疑心暗鬼ですね」


「その通り」


私はさらに続けた。


「地下都市経由で、ゆきちゃんにも伝達」


通信士が筆を取る。


「内容は?」


「こちらは帝国軍と通じているという噂を流す」


「向こうは」


私は少し笑う。


「王国軍と通じているという噂を流してもらう」


部屋中が静まり返る。

副官が目を丸くする。


「つまり……」


私は頷いた。


「王国は帝国を疑う」


「帝国は王国を疑う」


「そして」


私は地図の中央。

旧南国へ指を置いた。


「私達だけが、本当の事を知っている」


通信士が思わず呟く。


「双方とも……動きづらくなりますね」


「そういう事」


私は小さく笑った。

戦争は兵だけで行うものではない。


情報。噂。疑念。


それだけで止まる軍もある。


「残りの捕虜には、あえて兵士達の雑談として聞かせて」


副官が確認する。


「命令ではなく、噂としてですね」


「ええ」


「本当か嘘か解らない程度が一番効果があるわ」


通信士はすぐに書き留める。


「地下都市にも同時に伝達します」


「お願い」


私は窓の外へ目を向けた。

旧南国はまだ小さい。兵力も限られている。

だからこそ力だけでは勝てない。

相手が動く前に迷わせる。

それもまた戦い方だった。


「さて」


私は静かに呟く。


「どちらが先に疑い始めるかしら」


その日。


旧南国は一兵も動かさなかった。


しかし噂という名の小さな火種は王国と帝国、その両方へ向けて静かに放たれようとしていた。

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