王都への帰還
数日後の王都、中央庁舎。
会議室の空気は重かった。
旧南国。領都。反乱。
いや。今では反乱という言葉すら正しいのか解らなくなっていた。
その時、扉が開く。
「失礼致します」
全員の視線が向く。
入って来たのは一人の軍人。
レーツェルだった。
「生きていたか」
高官の一人が呟く。
レーツェルは敬礼した。
「王国軍調査隊隊長レーツェル」
「帰還しました」
部屋がざわつく。調査隊は消息不明だった。
戻って来るとは思われていなかった。
「報告を」
高官が促す。
レーツェルは頷いた。
そして言葉を選ぶように口を開く。
「まず結論から申し上げます」
会議室が静まる。
「旧南国は地方反乱ではありません」
沈黙。そして失笑。
「何を言っている」
「捕虜になって洗脳されたか?」
予想通りだった。
レーツェルも気にしない。
「続けます」
そして、一つずつ話し始めた。
通信網らしき仕組み。
ロイド。組織化された行政。
補給体制。印刷所。難民保護。捕虜管理。
会議室の空気が少しずつ変わっていく。
最初は笑っていた者達も次第に笑わなくなる。
「待て」
一人の高官が止める。
「通信網だと?」
「はい」
「本当に?」
「確認しました」
高官は黙る。
レーツェルは続ける。
「ロイドも多数確認」
「輸送能力は我々の予想を超えています」
「馬鹿な」
誰かが呟く。
だがレーツェルは淡々と話す。
見たままを盛らず、削らず、そのまま。
やがて会議室は静まり返った。
その時だった。
レーツェルは懐から一通の封筒を取り出す。
「預かっております」
全員が見る。封蝋付きの旧南国の紋章。
「誰からだ?」
レーツェルは答える。
「旧南国代表」
一拍置く。
「まき殿です」
再びざわめき。あの領主の娘だ。
高官が封を切り、中身を読む。
そして顔色を変えた。
「何と書いてある」
誰かが聞く。
高官はゆっくり読み上げた。
「旧南国は戦争を望まない」
静まり返る。
「徴発の停止」
「民間人への干渉停止」
「対話による解決を希望する」
そこまでは良かった。
問題は最後だった。高官が眉をひそめる。
そして最後の一文を読む。
「なお」
会議室の空気が張り詰める。
「侵攻が行われた場合」
一瞬の沈黙。
「旧南国は防衛のため必要な行動を取る」
誰も喋らない。
その文章には、脅しも、挑発も無かった。
ただ事実だけが書かれていた。
その時、会議室の端に座っていた老人が目を閉じた。
誰も気付かないほど小さく。
そして呟く。
「本当だったか……」
隣の高官が聞き返す。
「何がです?」
老人は窓の外を見る。
遠い南の空を。
「南国派だよ」
静かな声だった。
だが会議室の誰もが聞いていた。
老人は続ける。
「しかも」
ゆっくりと重く。
「我々が思っていたより遥かに厄介だ」
レーツェルは黙っていた。
否定出来なかった。
なぜなら実際に見てきたからだ。
通信網。ロイド。組織化された行政。
そしてあの領主の娘。
王都の者達がまだ理解していない事をレーツェルだけは知っていた。
旧南国はもう王都の知る辺境ではない。
新しい何かへ変わり始めている事を。




