捕虜との対話
領都。旧南国臨時政府庁舎。
「捕虜をお連れしました」
私は書類から顔を上げた。
「入れて」
扉が開くと、入って来たのは王国軍の隊長らしき男だった。手は拘束されている。
だが、怪我は無い。
服もそのまま。隊長は周囲を見渡していた。
そして私を見る。
少し驚いた顔になる。
「……貴女が?」
私は苦笑した。
「領主の娘よ」
隊長は黙った。
どうやら噂は本当だったらしい。
そんな顔をしている。
私は椅子を指差した。
「座って」
隊長は警戒したまま座る。
私は副官へ向く。
「お茶」
「はっ」
隊長が眉をひそめた。
数分後、湯気の立つ茶が置かれる。
隊長は更に困惑した。
「捕虜にですか?」
私は首を傾げる。
「喉渇いてるでしょ?」
隊長は言葉を失った。
私は構わず自分の分を飲む。
しばらく沈黙。やがて隊長が口を開いた。
「……何を聞きたい?」
私は笑った。話が早い。
「王都は何処まで知ってるの?」
隊長は考える。そして答えた。
「ほとんど知らない」
即答だった。
私は副官と顔を見合わせる。
「ほとんど?」
「そうだ」
隊長は苦笑した。
「徴発隊が消えた」
「官僚と連絡が取れない」
「領都とも連絡が取れない」
そこまでは知っている。
「後は噂だ」
私は興味を持った。
「どんな?」
隊長は指を折る。
「領主が反乱を起こした」
「いや領主の娘らしい」
「旧南国復活」
「南国派の蜂起」
「全部聞いた」
私は思わず吹き出した。
「酷いわね」
「俺もそう思う」
隊長も苦笑した。
少し空気が和らぐ。
その時、隊長が逆に聞いてきた。
「ならこちらも聞いていいか?」
私は頷いた。
「どうぞ」
隊長は真剣な顔になる。
「お前達は何者だ?」
私は少し考えた。
反乱軍か?独立派か?革命家か?
色々言い方はある。
だが、私の答えは決まっていた。
「領民を守りたい人達」
隊長は黙る。
私は続ける。
「徴発された村を見た」
「逃げてきた住民も見た」
「だから動いた」
それだけだった。
隊長はしばらく黙っていた。
やがて呟く。
「それだけで王都へ反旗を?」
私は首を振る。
「違う」
そして窓の外を見る。
「ずっと前から積み重なってたのよ」
旧南国。中央。徴税。人材流出。放置。
様々なものが。
隊長は静かに聞いていた。
その時、副官が報告書を持って入って来る。
「お嬢様」
私は目を通す。
国境監視所。王国軍。新たな動き。
やはり来た。私はため息を吐く。
隊長も察したらしい。
「増援か」
「そう」
私は隠さなかった。
隊長は少し笑う。
「なら俺達は終わりだな」
私は首を振った。
「別に?」
隊長が固まる。
「え?」
「捕虜交換の時まで保護するだけ」
今度は隊長が本気で困惑した。
「保護?」
私は頷く。
「食事出るわよ。寝床も怪我人は治療するし」
隊長は頭を抱えた。
「何なんだお前達は……」
私は笑った。
「旧南国よ」
それ以上の答えは無かった。
隊長は窓の外を見る。
訓練をしている兵士達。
走る鉄の箱。張り巡らされた鉄線?
そして風に揺れる旧南国旗。
隊長は静かに呟いた。
「王都の連中が見たら驚くだろうな」
私は少しだけ笑った。
「私もそう思う」
その日。
王国軍の調査隊は初めて旧南国の中枢を見た。
そして理解し始める。
自分達が追っていた相手は、王都が考えているような地方反乱軍ではない事を。




