見張る目
領都。
旧南国臨時政府庁舎。
私は机の上へ広げられた地図を見ていた。
旧南国全域。
そして王国との国境線。
その時、扉が叩かれる。
「失礼します!」
通信士だった。表情は明るい。
悪い報告ではなさそうだ。
「どうしたの?」
通信士は敬礼する。
「お嬢様!」
「旧南国国境へロイド偵察車の配備が完了しました!」
私は顔を上げた。
「全部?」
「はい!」
通信士は頷く。
「主要街道、山岳通路、河川渡河地点」
「全て配置完了です」
私は小さく息を吐く。
これで一安心だった。
「解ったわ」
地図へ視線を戻す。
「これで動きは監視出来るわね」
「はい!」
通信士も自信満々だった。
「王国軍が動けば即時報告可能です!」
その時、副官が口を開く。
「正直」
私は視線を向ける。
副官は苦笑した。
「ここまでやる必要がありますか?」
私は思わず笑った。
「あるわよ」
即答だった。
副官は首を傾げる。
私は窓の外を見る。
「向こうはまだ私達を地方反乱くらいにしか思ってない」
副官も頷く。
その可能性は高い。
「だからこそ」
私は続ける。
「こちらが先に知るの」
一日でも。半日でも。
数時間でも良い。情報が早く届く方が有利。
それは地下都市時代から変わらない。
その時、別の通信士が駆け込んで来た。
「報告!」
全員の視線が向く。
「国境監視所より第一報です!」
早い。
もう動き始めている。
私は椅子へ座り直した。
「内容は?」
通信士は紙を確認する。
「王国軍と思われる部隊の移動を確認」
部屋が静かになる。
「規模は小」
「現在も南下中」
私は頷いた。
予想通り、王都も動き始めている。
副官が聞く。
「どうします?」
私は少し考えた。
そして答える。
「何もしない」
副官が驚く。
「よろしいので?」
「ええ」
私は地図を指差した。
「見ているだけ」
それだけだった。
敵がどこを通るか。どこへ向かうか。
何人いるか。それを知る。
今必要なのは戦闘ではない。情報だった。
その時、通信士が呟く。
「何だか不思議ですね」
「何が?」
「昔は王国軍が来るまで何も解らなかったのに」
私は笑った。確かにそうだ。
昔なら、敵が来てから気付く。
今は違う。敵が動いた瞬間から解る。
通信網。鉄道。偵察車。
積み上げてきた全てが繋がっていた。
私は地図の上に置かれた報告書へ目を落とす。
王国軍第一報。
第二報も恐らく今日中に来るだろう。
その後も毎日。毎時間。情報は届く。
私は静かに呟いた。
「慌てなくていい」
副官が頷く。
「はい」
「向こうはまだ私達を知らない」
私は笑った。
「でも私達は向こうを知れる」
その差は大きい。
非常に大きい。窓の外を見る。
遠く南へ続く空。そして静かに呟く。
「今度は私達が見る番よ」
その頃、王国軍はまだ知らない。
自分達の移動が既に監視されている事を。
そして旧南国は、もはや昔の旧南国ではない事を。




