遠い南
王国軍駐屯地。
王都から東へ向かう街道沿い。
兵士達は焚火を囲みながら休憩していた。
「で?」
一人の兵士が干し肉を齧る。
「結局どうなったんだ?」
向かいの兵士が肩を竦めた。
「南の話か?」
「それ以外に何がある」
兵士達が笑う。
最近の話題はそればかりだった。
旧南国。領都。反乱。
色々な噂が飛び交っている。
だが、正確な情報は誰も持っていない。
「東へ向かわせていた軍の一部を南へ回すらしいぞ」
「本当か?」
「さあな」
兵士は焚火へ薪を放り込む。
「今の移動地点なら丁度良いとか何とか」
「どれくらい回すんだ?」
「知らん」
即答だった。
「上の連中も揉めてるらしい」
「揉めてる?」
「ああ」
兵士は苦笑する。
「地方反乱だ」
「いや違う」
「南国派だ」
「いや徴発問題だ」
「いや王都官僚が捕まった」
「いや全部噂だ」
両手を広げる。
「そんな感じらしい」
周囲から笑い声が漏れた。
いつもの事だった。
上層部は何時も決めるのが遅い。
その時、別の兵士が鼻で笑う。
「けっ」
全員がそちらを見る。
「地方の反乱だろ?」
焚火を突く。
「どうせすぐ終わる」
何人かが頷く。
実際そうだった。
今まで何度も似た話はあった。
辺境の反乱。領主同士の争い。農民暴動。
どれも長くは続かなかった。
俺ら王国軍が出れば終わる。
それが常識だった。
「まあそう言うな」
年上の兵士が笑う。
「そのお陰で俺達はここで待機だ」
「違いねぇ」
「南に行けと言われるまでは暇だ」
再び笑い声。
誰も緊張していない。
誰も焦っていない。
彼らにとって旧南国は遠かった。
あまりにも遠かった。
その時、伝令が馬で駆け込んで来る。
「伝令!」
周囲が振り返り、将校達が集まる。
何やら話している。
兵士達は興味本位で見ていた。
しばらくして、一人の将校が戻って来る。
「何だった?」
兵士が聞く。
将校は面倒そうに答えた。
「南方面への移動準備だ」
焚火の周囲が少し静かになる。
「本当に行くんですか?」
「まだ解らん」
将校も首を振った。
「準備だけだ」
そして小さく付け加える。
「王都も状況を掴み切れていないらしい」
兵士達は顔を見合わせた。
珍しい。
王国にしては、かなり珍しい話だった。
だが、それでも誰も深刻には考えない。
旧南国は遠い。
地方の騒ぎは地方の騒ぎ。
王国軍が動けば終わる。
そう思っていた。
少なくともこの時までは。誰も知らない。
その南で鉄道が動き。通信網が繋がり。
印刷物が広がり。
そして一人の若き領主が、王国そのものへ挑もうとしている事を。王国軍の多くは、まだ何も知らなかったのである。




