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転生エンジニア、隣国の友人と産業革命を始めます  作者:


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広がる紙

朝、領都。

昨日までの騒ぎが嘘のように市場は開いていた。


だが、人々の話題は一つだった。


「何だこれ?」


商人の男は配られた紙を広げた。

印刷された文字。


徴発。避難民。地下都市。旧南国。


色々書かれている。

隣の商人も覗き込む。


「読めるか?」


「まあな」


男は紙を読み進めた。

やがて眉をひそめる。


「小村から物資を持っていったらしい」


「本当か?」


「知らん」


だが、商人は腕を組んだ。


「ただな」


「何だ?」


「徴発が続いたら商売は死ぬ」


隣の商人も頷いた。それだけは解る。

物が無くなる。人も減る。金も回らない。

戦争は儲かる者も居る。

だが、大半は損をする。


その時、別の商人が会話へ入って来た。


「しかし驚いたな」


「何がだ?」


「あの領主の娘だよ」


二人が顔を見合わせる。


「ああ」


「全部あの娘がやったらしいな」


「信じられん」


商人は苦笑した。


「俺も最初は噂だと思った」


役所。


一人の若い役人が恐る恐る出勤した。

昨日、領都は制圧された。

今日は失業かもしれない。そう思っていた。

机の上には書類が積まれている。


そして、新しい命令書。


『通常業務継続』


「……え?」


思わず声が出た。

周囲の役人達も似たような顔をしている。


「首じゃないのか?」


「らしいぞ」


「給金もそのままだとか」


皆、困惑していた。反乱軍だと思っていた。

やっている事は逆だった。

役所は普通に動いている。


その時、年配の役人が小声で言った。


「聞いたか?」


「何をです?」


「今の責任者」


若い役人が首を傾げる。


「領主様ではない」


一拍。


「娘殿だ」


若い役人は固まった。


「……本当に?」


「らしい」


役所内には何とも言えない空気が流れた。


広場。


老人が一枚の紙を見ていた。

その隣には孫らしい少年。


「お爺ちゃん」


「何だ?」


「旧南国って何?」


老人は少し笑った。

そして広場の上を見た。

そこには旧南国旗が風に揺れている。


「昔の国だ」


「国?」


「そうだ」


老人は懐かしそうに目を細める。


「儂が子供の頃の話だ」


少年は旗を見る。

意味は解らない。

だが、老人には解った。

あの旗が持つ意味を。


「お爺ちゃん」


「ん?」


「あれを掲げたのは誰?」


老人は少し考える。

そして答えた。


「領主の娘らしい」


「娘?」


「そうだ」


少年は驚いた顔をする。

老人も苦笑した。


「儂も驚いたよ」


地下都市。


避難民用宿舎。一人の農民が紙を読んでいた。

隣には妻と子供。紙には、自分達の村の話が載っている。


徴発。避難。保護の全部。


本当に起きた事だった。

農民は静かに呟く。


「書いてあるな」


妻も頷く。


「書いてあるね」


嘘ではない。少なくとも自分達にとっては。

その時、隣の避難民が話しかけて来た。


「聞いたか?」


「何を?」


「助けてくれた人」


農民は首を傾げる。


「地下都市の領主娘だと」


農民は少し驚いた。


「娘が?」


「そう聞いた」


しばらく沈黙。

やがて農民は小さく笑った。


「なら礼を言わんとな」


商会。


会頭が帳簿を見ていた。その隣には印刷物。

何度も読み返す。

そして、最後に呟いた。


「さて」


部下が聞く。


「どうされます?」


会頭は窓の外を見る。


領都。市場。人々。そして旧南国旗。


「様子見だな」


即答だった。


「どちらが勝つか?」


部下が聞く。

会頭は首を振る。


「違う」


そして笑った。


「どちらが儲かるかだ」


商人らしい答えだった。

その後で続ける。


「ただ」


「はい?」


会頭は印刷物を机へ置く。


「若い娘だと思って侮らない方が良さそうだ」


部下も静かに頷いた。

鍛冶屋。農民。職人。兵士。役人。商人。

様々な人々が同じ紙を手に取る。


同じ内容を読む。

そして、同じ噂を耳にする。


領主の娘。


地下都市の主。領都を制圧した若き領主。


支持する者も居る。

反対する者も居る。

信じる者も居る。

疑う者も居る。


だが、一つだけ確かな事があった。


昨日まで、地下都市は遠い存在だった。

領主の娘など名前しか知らなかった。


しかし今は違う。旧南国旗は領都に掲げられ。

印刷された言葉は各地へ広がり。


そして、領主の娘の名もまた。

人々の口から口へと広がり始めていた。


この変化は、本当に終わるのか?

それとも始まりなのか?

人々はまだ答えを持たない。

だが少なくとも、誰もが同じ方向を見始めていたのである。

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