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転生エンジニア、隣国の友人と産業革命を始めます  作者:


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336/356

祖父の旗

執務室。


先程まで官僚達が居た部屋には、今は私と父だけだった。静かだった。あまりにも。


「お父様……」


私は言葉を探した。

だが父は首を横に振る。


「何も言うな」


その声は疲れていた。

だが不思議と穏やかだった。


「私の責任でもある」


私は俯く。

父は窓の外を見る。


領都。


そこには今も多くの人々が暮らしている。


「好きなように動け」


一拍。


そして続けた。


「だが無理はするな」


私は小さく頷く。


「……はい」


父は苦笑した。


「まったく」


「誰に似たんだかな」


私は思わず笑う。

その時だった。父が立ち上がる。

そして執務室の奥へ歩いて行った。

壁には王国旗が掲げられている。


長年。この執務室に飾られてきた旗。


父はそれを外した。

するとその下から別の旗が現れた。

私は思わず息を呑む。


「それは……」


見た事がある。

資料の中で。古い記録の中で。旧南国旗。

父は静かに旗を見つめた。


「お前の祖父が守った旗だ」


私は言葉を失う。

父は続ける。


「祖父は最後まで諦めなかった」


「自治を求めた」


「旧南国の人々が自分達で未来を決められるようにな」


静かな声だった。


「だが叶わなかった」


私は旗を見る。

古い。だが大切に保管されていた事が解る。

父は旗を私へ渡した。


「持って行け」


私は両手で受け取る。思ったより重かった。

布の重さではない。歴史の重さだった。


「……はい」


父は満足そうに頷く。

そして。


「警備兵」


扉が開くと兵士達が入って来る。

私は目を閉じた。

そして命じる。


「お父様を丁重に軟禁せよ」


「はっ」


兵士達は敬礼する。

父も抵抗しない。

去り際。振り返る事なく言った。


「生き残れよ」


短い言葉だった。

だが、私はその言葉を胸に刻んだ。

父が去る。執務室に残ったのは私だけ。


その時、副官が飛び込んで来た。


「お嬢様!」


「準備が整いました!」


私は旗を見つめる。

そして頷いた。


「領都民へ演説を行う」


「はっ!」


広場には、人が集まっていた。

領都の住民。兵士。役人。商人。

皆が不安そうな顔をしている。

私は演壇へ上がった。


そして旧南国旗を掲げる。


ざわめきが広がる。

私は静かに口を開いた。


「この旗を知る者は少ないでしょう」


広場が静まる。


「これは旧南国の旗です」


誰も喋らない。私は続ける。


「この土地は長い間、他者によって決められてきました」


「何を作るか?何を育てるか?何を守るか?全てです」


人々は黙って聞いている。


「私の祖父は自治を求めました」


「この土地の人々が、この土地の未来を決める為に」


風が吹く。旗が揺れる。


「ですが叶いませんでした」


私は人々を見る。


「そして今」


「徴発によって村は苦しみ」


「領都には情報すら届かない」


「私はそれを見ました」


広場が静まり返る。


「だから私は行動しました」


「領都を守る為に!村を守る為に!」


「この土地の人々を守る為に!」


一拍。


そして。


「私は戦争がしたい訳ではありません」


「誰かを支配したい訳でもありません」


「ただ」


私は旗を掲げた。


「この土地の未来を」


「この土地の人々自身で決められるようにしたいだけです」


誰も喋らない。全員が聞いていた。


「その為に、皆さんの力を貸して下さい」


風が吹く。

旧南国旗が大きく翻った。

広場のあちこちで、人々が顔を見合わせる。

年配の男が小さく呟いた。


「まだ残っていたのか……」


隣の老人も旗を見つめている。

若い者達は意味が解らない。だが年寄り達は知っていた。

昔、確かに存在した旗だ。

私はその様子を見ながら続けた。


「私達は誰かに奪われる為に働いているのではありません」


「私達は生きる為に働いています」


「家族を守る為に!村を守る為に!この土地を守る為に!」


ざわめきが少しずつ変わっていく。

不安から。期待へ。

私は最後に言った。


「徴発は止めます」


広場が静まる。


「村を守ります!領都を守ります!」


「そして」


私は旧南国旗を高く掲げた。


「この土地の未来は、この土地に住む人々が決めます」


風が吹いた。旗が大きく翻る。

そしてその瞬間、広場のどこかから拍手が聞こえた。


一人。また一人。


やがてそれは広場全体へ広がっていく。

私は静かにその光景を見つめていた。

祖父が見たかった景色は、もしかしたら、こういう景色だったのかもしれない。

そんな事を思いながら。

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