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転生エンジニア、隣国の友人と産業革命を始めます  作者:


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335/359

徴発命令

執務室は、重苦しい空気が漂っていた。


先程まで威勢の良かった官僚達は椅子へ座らされている。


扉の外には武装した兵士。

逃げ道は無い。


私は父の執務机へ座った。


本来なら父の席。だが今は違う。

向かいには王都の官僚達。


そして監督官ら、全員が揃っていた。


「さて」


私は書類を机へ置く。


「聞きたい事は一つ」


官僚達を見る。


「誰が徴発を命じたの?」


沈黙。

誰も答えない。

私は続ける。


「最北端の村、東部の三村、南街道沿いの二村」


「避難民から話は聞いてる」


官僚達の表情が僅かに変わる。

私は逃さない。


「答えて」


静かな声。

だが部屋の温度が下がる。


その時、一人の官僚が鼻を鳴らした。


「戦時だ」


私は眉をひそめる。

官僚は続ける。


「徴発など珍しくもない」


「それで?」


私は促す。

官僚は堂々と言った。


「国家の為だ」


私はため息を吐く。


「質問に答えて」


「誰が命じたの?」


再び沈黙。

監督官が口を開いた。


「答えろ」


低い声だった。

官僚達の肩が僅かに震える。


「監督官殿」


「答えろ」


もう一度、だが圧力は十分だった。

しばらくして。

年長の官僚が口を開く。


「正式命令ではない」


部屋が静まり、私は目を細める。


「何ですって?」


「正式な徴発令は出ていない」


監督官も顔をしかめた。

私は思わず聞き返す。


「じゃあ何?」


官僚は視線を逸らした。

そして小さく答える。


「要請だ」


「……」


「国軍への協力要請」


私は頭を抱えたくなった。

つまり命令ですらない。


その時、監督官が机を叩いた。


バンッ!


全員が震える。


「要請で村を空にしたのか?」


怒気が滲む。珍しい。

私は初めて見たかもしれない。

官僚達は押し黙る。

監督官は続けた。


「誰が判断した?」


誰も答えない。


「誰だ」


重い声。


そして、一人が震える手を上げた。


「わ、私です」


部屋が静まる。

若い官僚だった。

私は思わず聞く。


「理由は?」


官僚は苦しそうに答えた。


「大きな町は抵抗が予想された」


監督官の顔が険しくなる。

官僚は続ける。


「小村なら早い」


私は言葉を失った。

やっぱり予想通りだった。


「効率を優先した?」


官僚は黙ったまま頷く。

私は椅子へ背を預ける。

最悪だった。

本当に。


その時、父が初めて口を開いた。


「馬鹿者」


小さな声だった。

だが部屋全体に響いた。

官僚は俯く。

父は続ける。


「領民は数字ではない」


静かな声。

怒鳴らないが重かった。


「守る為に居る。奪う為ではない」


官僚は何も言えない。

監督官も黙る。


私も黙った。

しばらく静寂が続く。

やがて私は立ち上がった。


「結論は出たわね」


全員がこちらを見る。


「徴発行為は停止」


「避難民への補償準備開始」


「徴発責任者は拘束」


官僚達が顔を上げる。

私は続ける。


「それと」


一拍。


「各村への謝罪文も作成」


誰も反論しない。

出来ない。

事実が明らかになったから。

私は窓の外を見る。


領都。


その向こうにある村々。

守るべき人達。

その為に、私はここまで来たのだ。


その日。


領都では徴発命令の実態が明らかになった。

それは王都の大きな陰謀でも。

国王の命令でもなかった。


ただ、効率だけを見た愚かな判断。


そしてその結果が領都そのものを揺るがす事になったのである。

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