権限移譲
「睨めっこしていても始まらないわね」
私は前方の領館を見た。
「各車前進せよ!」
副官達が一斉に動く。
「各々、目標地点を確保!」
「はっ!」
エンジン音が響く。ロイド。くろがね。輸送隊。待機していた部隊が一斉に動き出した。
「突入!!」
雪崩れ込んだ部隊は事前計画通り、それぞれの目標へ向かっていく。
行政区画。通信施設。倉庫。警備隊詰所の全てだ。私は直営隊と共に領館を目指した。
やがて領館前へ到着する。
そして私は眉をひそめた。
「……何あれ」
庭に停まる豪華な馬車。
その側面には王国の紋章。
それも大きく掲げられていた。
副官も驚く。
「王都の官僚ですか?」
「みたいね」
嫌な予感しかしない。
私は扉を開けた。
「降車!」
兵士達が飛び出す。
「領館へ!」
「はっ!」
私は94式をホルダーから抜く。
冷たい感触。
そして館内へ踏み込んだ。
廊下を進む。
使用人達が驚いて道を空ける。
私は構わず進んだ。
「二階よ!」
部下達が続く。
そして執務室前、私は躊躇わなかった。
バン!
勢い良く扉を開く。
部屋の中、そこには父。
そして見慣れない官僚達が五人ほど居た。
全員が立ち上がる。
「何事だ?」
父が驚いた顔で聞く。
私は94式を下ろさない。
そのまま答えた。
「報告です」
静かな声。
だが部屋の空気は張り詰める。
「小規模村落が王都派遣の徴発隊によって物資を失いました」
官僚達の顔が変わる。
私は続ける。
「住民は保護を求め地下都市へ避難」
「現在も調査継続中です」
父が目を見開く。
「何だと?」
視線が官僚達へ向く。
「どういう事だ?」
一人の官僚が不機嫌そうに答えた。
「さぁ?」
肩を竦める。
「現場の跳ねっ返りが先走ったのでは?」
私は舌打ちした。
「チッ」
軽すぎる。あまりにも。
私は父を見る。そして深く頭を下げた。
「お父様」
父が戸惑う。
「な、何だ?」
私は顔を上げる。
「申し訳ございません」
静かな声だった。
「現在の領政は情報収集能力が欠如しております」
官僚達の顔色が変わる。
私は続けた。
「村は徴発され、住民は逃げ出し」
「領都には情報が届いていない」
一拍。
「もしくは無視されている」
誰も反論しない。
出来ない。事実だからだ。
私は宣言した。
「お疲れのようですので」
部屋が静まる。
「本日より、この地の管轄は私が引き継ぎます」
父が固まる。官僚達も固まる。
数秒後。
一人の官僚が立ち上がった。
「小娘が何を言っている!」
怒鳴り声。
私はため息を吐く。
「はぁ……」
本当に話が通じない。
「貴方」
私は真っ直ぐ見る。
「言葉が理解出来ないの?」
官僚の顔が赤くなる。
「貴様!」
腰の剣へ手を伸ばす。
その瞬間、乾いた音が響いた。
パンッ!
悲鳴。
官僚の手から剣が落ちる。
腕を押さえている。血が滲んでいた。
「うっ……!」
全員が凍り付く。
私は94式を構えたまま。
静かに言った。
「次は外さないわよ」
部屋は静寂に包まれる。
「武器から手を離して」
誰も動かない。
「降伏しなさい」
父も。官僚達も。誰一人として声を出せなかった。その時、執務室の外から足音が響く。
「報告!」
部下が飛び込んで来る。
「行政区画確保!」
「通信施設確保!」
「倉庫確保完了!」
次々と報告が上がる。
私は小さく頷いた。
領都は落ちた。
少なくとも行政機能は。
その時、監督官がゆっくりと部屋へ入って来た。官僚達は更に顔色を変える。
「か、監督官殿!」
助けを求めるような声。
しかし監督官は周囲を見渡し。
静かに言った。
「村の徴発について説明してもらおうか」
その一言で、官僚達の顔色は青く変わった。
そして誰もまだ理解していなかった。
この日を境に地下都市だけではなく。
領都そのものもまた、大きく変わり始める事を。




