見える旗
「おい……」
領都西門。見張り台の兵士が目を細めた。
街道の先に、何かが見える。
最初は砂埃だった。
だが違う。
「あれは……」
隣の兵士も立ち上がる。
遠くからゆっくりとだが、確実に近付いて来る。
長い列。非常に長い。
「馬車隊か?」
「いや……」
兵士は首を振る。
違う。何かがおかしい。
その時、太陽の光が反射した。
ギラリ。
見張り兵が固まる。
「何だあれ?」
馬ではない。荷馬車でもない。
見た事が無い。黒い大きいな鉄の塊。
それが何台も並んでいる。
「伝令!」
兵士が叫ぶ。
「はっ!」
「確認しろ!」
伝令が階段を駆け下りる。
城門周辺も騒がしくなる。
兵士達が集まり始めた。
その頃、街道。
私は先頭のくろがねに乗っていた。
前方には領都。高い城壁。大きな門。
そして慌ただしく動く兵士達が見える。
向こうもこちらに気付いたらしい。
その時、助手席の副官が聞く。
「本当にこのまま行くんですか?」
「行くわよ」
即答だった。
副官は苦笑する。
「止められますよ?」
「止められないわ」
私は笑う。
そして窓の外を見る。
ロイド。くろがね。輸送隊。兵士達。
皆、堂々と進んでいる。
隠れていない。
だからこちらも堂々と行く。
その時、後方から監督官の車両が追い付いて来た。
窓が開く。
「おい」
私は振り返る。
監督官だった。
「何?」
監督官は呆れた顔をしている。
「本当に昼間に来る奴があるか」
私は笑った。
「来たじゃない」
「そういう話じゃない」
即答だった。
周囲から笑い声が漏れる。
だが、監督官は真面目だった。
「隠れる気は無いのか?」
私は少し考える。
そして答えた。
「無いわね」
監督官がため息を吐く。
私は続けた。
「だって」
視線を前へ向ける。
領都、その向こうの人々。
「隠れる理由が無いもの」
監督官は黙った。
私は更に続ける。
「私達は盗賊じゃない」
「……」
「領民を守りに来たのよ」
短い沈黙。
その後、監督官は小さく笑った。
「本当に面倒な娘だ」
聞き飽きた台詞だった。
私は肩を竦める。
その頃、領都西門。
兵士達は混乱していた。
「何だあれ!?」
「報告では聞いていないぞ!」
「敵か!?」
「いや待て!」
指揮官が叫ぶ。
そして、目を凝らした。
先頭車両のその前に翻る旗。
見覚えがある。領都所属。
正式な領主旗。
「……は?」
指揮官が固まる。
兵士達も固まる。
敵なら話は簡単だった。
だが違う。見えるのは、間違いなく領地旗。
その時、別の兵士が叫ぶ。
「伝令!」
「領主軍です!」
「領主軍が来ました!」
門の上が騒然となる。
誰も理解出来ない。
何故。何の為に、何が起きているのか。
その頃、私は前方の門を見る。
あと少し本当にあと少し。
「全車停止準備」
命令が飛ぶ。
ロイドが速度を落とす。
くろがねも続く。
長い車列がゆっくりと減速していく。
そして、領都の門前。
両者は初めて向かい合った。
だが、剣は抜かれていない。
銃も向けられていない。
今はまだ。
その日、領都の人々は初めて目にした。
地下都市が隠し続けてきた力を。
そしてその中心に立つ若き主人の姿を。




