白昼の進軍
領都郊外。
私はくろがねの助手席で大きく伸びをした。
「ふぅ……」
走った。本当に走った。
昼も夜も関係無く。
途中で補給だけを行い。
可能な限り速度を優先した。
その結果。領都外縁へ到着した。
窓の外には遠く領都の城壁が見えている。
あと少し!本当にあと少しだ!
その時、副官が地図を見ながら聞く。
「このまま進みますか?」
私は少し考えた。
本音なら、このまま行きたい。
勢いのまま、領都へ入ってしまいたい。
だが首を横に振った。
「駄目!三時間休憩」
副官が頷く。
「補給もですね」
「そう」
私は深く息を吐く。
疲れている。私も兵士達も整備員達も全員だ。
今まで無理をして走り続けて来た。
ここで倒れたら意味が無い。
「本来なら突入したいんだけどね」
私は苦笑する。
「流石に疲労が隠せないわ」
副官も苦笑した。
「皆限界が近いです」
「でしょうね」
私は肩を竦める。
「ブラック企業経験者じゃないと厳しいわ」
「ぶらっく?」
「何でもない」
説明が面倒だった。
三時間後。野営地は慌ただしく動いていた。
食事。整備。燃料補給。弾薬確認。
短い時間だったが効果は大きい。
兵士達の顔色も多少戻っている。
私は時計代わりの懐中時計を閉じた。
「よし」
本来なら夜を待つべきだろう。
闇に紛れ奇襲する。それが普通だ。
だが今回は違う。私は時間が欲しい。
戦いたい訳ではない。
領都を混乱させたい訳でもない。
出来れば、抵抗される前に終わらせたい。
私は各部隊長を集めた。
即席の会議。
全員が地図を囲む。
私は書類を机へ置いた。
「これを持って行って」
隊長達が書類を見る。
そこには私の署名と印。
そして命令書。全て本物。
「行政区画」
「倉庫」
「治安隊本部」
「それぞれへ提出」
私は全員を見る。
「これがあれば」
少し笑う。
「抵抗はしないはず」
少なくともまともな役人なら。
領主本人の命令書を無視出来ない。
その時、一人の隊長が聞く。
「もし抵抗された場合は?」
私は即答した。
「武装解除以上」
隊長達が頷く。
余計な戦闘は不要。目的は占領ではない。
指揮権の確保。
それだけだ。
全員へ命令が伝わる。
ロイドのエンジンが始動する。
くろがねも動き始める。
出発準備完了。私は帽子を被り直した。
そして集まった隊長達を見る。
緊張している者。
興奮している者。
様々だ。だから私はわざと笑った。
「さーて」
全員がこちらを見る。
「みなさん」
私は立ち上がる。
「白昼堂々と進軍するわよ」
一瞬の静寂。
そして誰かが笑った。
それが伝染する。
張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
そう。隠れる必要は無い。逃げる必要も無い。
私達は盗賊ではない。反乱軍でもない。
少なくとも私達自身はそう思っている。
だから堂々と行く。
その日。
地下都市軍は領都へ向けて進軍を再開した。
旗を隠す事も無く堂々と白昼の街道を進みながら。




