最初の衝突
国境地帯。地下都市から最も遠い村の一つ。
そこでは異様な光景が広がっていた。
「次だ!その倉庫も開けろ!」
王国軍所属の徴発隊が村の中央で指示を飛ばしている。
村人達は不安そうな顔で見守るしかない。
村長も必死だった。
「お待ち下さい!」
「それ以上持って行かれては村が持ちません!」
だが徴発隊の隊長は鼻で笑う。
「戦になるのだ」
「国の為に協力するのは当然だろう」
その言葉に村人達は顔を伏せた。
その時だった。
遠くから荷馬車の列が現れる。
地下都市から派遣された輸送隊だった。
武器。弾薬。通信機材。
各村への配備物資を積んでいる。
最初に異変へ気付いたのは輸送隊護衛隊長だった。
「ん?」
視線の先。
見慣れた軍服。荷物を運び出す兵士達。
そして怯える村人達。
「王国軍?」
隣の部下も目を細める。
「こんな場所で何を……」
輸送隊は村の入口で停止した。
護衛隊長は馬から降りる。
そして徴発隊へ近付いた。
「何をしている?」
徴発隊長が振り返る。
「見て分からぬか?」
当然のように答えた。
「徴発だ!戦争準備の為にな」
護衛隊長は積み上げられた荷物を見る。
想像以上だった。
穀物。保存食。家畜飼料。工具。
かなりの量。
「この小さな村でその量を?」
「ふん」
徴発隊長は笑う。
「協力するのが誉だろう」
その時、村長が駆け寄って来た。
「隊長殿!」
声が震えている。
「強制的に持って行かれております!」
「これほど持って行かれたら我々は飢えるしかありません!」
徴発隊長は露骨に不機嫌な顔をした。
「黙れ!国が優先だ」
村長は言葉を失う。
護衛隊長はその様子を見ていた。
静かに。そして部下へ振り返る。
「戦闘配置」
周囲が静まる。
部下達が即座に動く。
荷馬車の陰。道路脇。訓練通り。
そして一斉に38式を構えた。
徴発隊長が眉をひそめる。
「何だ?何をしている?」
その時、初めて気付く。
見慣れない武器。
見慣れない隊列。
見慣れない動き。
「警告する」
護衛隊長は静かに言った。
「徴発を停止しろ」
徴発隊長は笑った。
「馬鹿を言うな!我々は王国軍だ」
「命令に従っているだけだ」
護衛隊長は小さく息を吐く。
そして、最後の警告を行った。
「村民の生存を脅かす徴発は認められない」
「即時中止しろ!」
徴発隊長は剣へ手を掛けた。
「貴様ら――」
その瞬間、護衛隊長の手が上がる。
「発砲せよ」
パァン!
乾いた音が村へ響く。
徴発隊長が胸を押さえる。
「う……」
何が起きたのか理解出来ない。
よろめき、そして倒れた。
続いて数発。
パァン!
パァン!
徴発隊は完全に混乱した。
反撃する間も無い。
剣を抜く前に倒れる。
弓を構える暇も無い。
短時間で戦闘は終了した。
護衛隊側被害無し。
徴発隊は数名が倒れ、生き残りは武装解除された。
村は静まり返る。誰も声を出せない。
村人達は呆然としていた。
護衛隊長は帽子を被り直す。
そして通信兵を見る。
「地下都市へ無線」
「はっ」
通信兵が機材を展開する。
慣れた手付きで、そして送信を始めた。
『地下都市へ』
『我、王国軍所属徴発隊と交戦セリ』
『こちら被害なし』
『村民の生活権を脅かした為、発砲』
『徴発隊制圧、指示を請う』
通信機から雑音が流れる。
護衛隊長は空を見上げた。
理解している。
この報告が届いた瞬間、全てが変わる。
もう後戻りは出来ない。
その日。
地下都市と王国軍は――
初めて武力をもって衝突した。
そしてその一報は、無線によって地下都市へ向けて送られていったのである。




