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転生エンジニア、隣国の友人と産業革命を始めます  作者:


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監督官の選択

カラン――


机の上へ置かれた剣。

その音だけが会議室に響いた。

私は黙って見ていた。監督官アルヴェルト。

王都より派遣された監督官。


その本人が自ら剣を置いた。

副官も続く。

警備兵達は緊張したまま、誰も動かない。

誰も喋らない。


その時、監督官が椅子へ座り直した。


「……なるほどな」


私は何も答えない。

監督官は苦笑する。


「まさか本当にやるとは思わなかった」


「私もよ」


本音だった。数日前まで、こんな事をするつもりは無かった。本当に。


その時、監督官は窓の外を見る。


工場。倉庫。物見櫓。貨物列車と全部。

見慣れた光景。

そして、今まで調査してきた物。


「ゆき殿も同じ事をしたのか?」


その言葉に、会議室が静まる。

私は少しだけ驚く。


「解るの?」


「解る」


即答だった。

監督官はため息を吐く。


「お前の顔を見ればな」


私は苦笑する。

流石、伊達に長年生き残っていない。


その時、副官が立ち上がる。


「監督官殿!」


怒りを隠せない声。


「この者は明確な反逆行為を――」


「黙れ」


低い声。副官が止まる。

会議室も止まる。監督官は静かに続けた。


「反逆?」


一拍。


「なら聞くが」


副官を見る。


「王都は何を守る?」


「それは国家です」


「そうだ」


監督官は頷く。

そして、窓の外を見る。


市場。学校。診療所。人々。


「では領主は何を守る?」


副官は答えられない。

監督官が代わりに答える。


「領民だ」


静かな声だった。


だが重かった。

その時、私は黙って聞いていた。

監督官は続ける。


「今の王都は国を見る。それは正しい」


「だが」


一拍。


「こいつは目の前の人間を見ている」


副官は言葉を失う。監督官は私を見る。


「気に入らん」


「でしょうね」


「非常に気に入らん」


私は苦笑する。だろうと思った。

その時、監督官は椅子へ深く座る。

そして、天井を見た。


「だがな」


沈黙。数秒。

そして。


「今のお前を止めれば」


視線が私へ向く。


「この地下都市は終わるかもしれん」


誰も喋らない。


「備蓄、通信、鉄道、工業、医療、全部見てきた」


監督官は静かに言う。


「だから解る」


会議室は、完全な沈黙。


「お前は権力が欲しい訳じゃない」


「……」


「欲しいならもっと前にやっている」


誰も反論しない。

その通りだから。


その時、監督官は笑った。

疲れた様な。諦めた様な。


そんな笑み。


「本当に面倒な娘だ」


「褒め言葉?」


「違う」


即答だった。

少しだけ笑いが起きる。だがすぐ消える。

現実は変わらない。


その時、副官が震える声で言う。


「監督官殿……王都への報告は」


全員が監督官を見る。

重要なのはそこだ。


王都、国、中央にどう報告するのか。

監督官は長く沈黙した。

そして、決めた様に言う。


「会議継続中」


「……え?」


副官が固まる。監督官は続ける。


「地下都市に異常無し」


会議室が静まり返る。

副官が思わず立ち上がる。


「監督官殿!」


「聞こえなかったか?」


「ですが!」


「異常は確認していない」


監督官は真顔だった。

副官は何も言えなくなる。

私は監督官を見る。監督官もこちらを見る。


そして小さく言った。


「貸しだ」


「高くつきそうね」


「当然だ」


会議室に僅かな笑いが戻る。

だが全員理解していた。

今、監督官もまた、後戻り出来ない場所へ足を踏み入れた。


その日。


地下都市では――


一人の若き責任者だけでなく、王都から派遣された監督官もまた自らの選択を下した。


それは職務違反か?裏切りか?

それとも守るべき物を守る為の決断か?まだ誰にも解らなかった。

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