友からの返信
「お嬢様」
地下通信室。
通信士が一枚の紙を持ってくる。
「ゆき様から返信が届きました」
「早いわね」
私は受け取る。
そして暗号を解読した文面へ目を通した。
『こちらは概ね平常運用』
『移住者増加中』
『職人、役人の流入あり』
『荷馬車及び馬を送る』
『必要であれば追加対応可能』
『無理はしない事』
「……」
私は思わず少し笑った。
最後の一文は、いかにもゆきちゃんらしい。
その時、通信文官が聞く。
「内容はどうでした?」
「概ね良好」
私は紙を見ながら答える。
「少なくとも、こっちほど監視の目は無いみたい」
「そうなのですか?」
「多分ね」
もし監督官が居ればこんなに平常運用とは書かない。移住者も増えている。
職人も役人も流入している。
つまり向こうは向こうで順調に発展しているらしい。
「羨ましいわねぇ」
思わず本音。
周囲から苦笑が漏れる。
その時、整備文官が別の部分を見る。
「荷馬車及び馬を送る、ですか」
「そこ」
私は指差した。
「そこが一番助かる」
本当に今、一番欲しい物。
それだった。
ロイドは使えない。
くろがねも使えない。
監視の目がある。
結果。荷馬車、そして馬、原点回帰。
「今は数を増やして対応するしか無いわね」
「そうですね」
整備文官も頷く。
効率は落ちる。
でも止める訳にはいかない。
その時、通信文官が言った。
「追加対応可能ともあります」
「そうね」
私は少し考える。
ありがたい申し出。本当にでも。
全部頼る訳にはいかない。
向こうも向こうで忙しい。
移住者対応。役人教育。職人受け入れ。
やる事は山ほどあるはず。
その時、私は最後の一文をもう一度見る。
『無理はしない事』
「……」
少しだけ笑う。
多分、向こうも同じ事を言われている。
私から何度も。
その時、遠くで列車の汽笛が聞こえた。
ポォォォォ――
窓の外。貨物列車がゆっくり走る。
荷馬車が行き交う。市場も動いている。
地下都市も。ヴァイスベルクも。
まだ動いている。
戦争の影は近付いている。
でも今はまだ、やれる事がある。
私は紙を畳んだ。
「返信を書くわ」
「何と?」
通信士が聞く。
私は少し考える。
そして笑った。
「荷馬車と馬ありがとう」
「助かる」
「あと」
一拍。
「そっちも無理しないで」
通信室から小さな笑い声が漏れた。
結局、言う事は同じだった。
その日。
地下都市には――
遠く離れた友からの返信が届いた。
それは軍事報告でもなければ政治文書でもない。
ただの近況報告だが不安な時代だからこそ。
その何気ないやり取りが、二人にとって大きな支えになっていたのである。




