中央からの通達
朝の行政区画。
いつもの様に書類を見ていた時だった。
「お嬢様!」
通信文官が慌ただしく入ってくる。
私は顔を上げる。
「今度は何?」
最近、その言葉を言う回数が増えた気がする。
文官は手にした封書を差し出した。
「中央より正式通達です」
「……」
来たか。そんな気分だった。
私は封を切る。中身を見る。
そして、思わず笑った。
「やっぱり」
「何でした?」
周囲の文官達も集まる。
私は読み上げた。
「北方情勢悪化に伴い」
「各領地は備蓄状況」
「治安維持体制」
「主要通信設備の現状」
「以上を報告せよ」
部屋が静かになる。
誰かが呟く。
「来ましたね」
「来たわね」
予想通り。
むしろ来ない方がおかしい。
その時、整備文官が資料を見る。
「通信設備までですか」
「そうみたい」
私は頷く。
中央も馬鹿じゃない。
北で問題が起きている。
ならまず、自国の状態を把握する。
当然その時、若い文官が確認する。
「どう報告します?」
「普通に」
即答。
隠す必要も無い。少なくとも大部分は。
その時、通信文官が苦笑した。
「普通……ですか」
「何?」
「普通の基準がですね……」
言葉を濁す。
私は少し考える。そして周囲を見る。
皆、微妙な顔。
「……」
嫌な予感。
その時、整備文官が資料を開く。
「食料備蓄」
「はい」
「二年超えています」
「そうね」
「薬品」
「一年以上」
「そうね」
「通信塔」
「領都、地下都市、各中継所」
「そうね」
「鉄道」
「稼働中」
「そうね」
「……」
文官達は、全員黙る。
私は少し首を傾げた。
「何?」
通信文官が小さく言う。
「これを普通と呼ぶのは、この辺りだけです」
会議室に、少し笑いが起きる。
その時、扉がノックされた。
「失礼します」
入ってきたのは中央監督官アルヴェルト。
「通達が届いた様だな」
「ええ」
私は書類を渡す。
監督官は目を通した。そして、小さく頷く。
「予想通りだ」
「そっちも?」
「王都は本格的に状況把握を始めた」
やはり北方情勢。
それだけ重くなっている。
その時、監督官は報告予定資料へ目を通す。
数秒後、止まった。
「……」
私は見た。
まただ、最近よく見る顔。
その時、監督官は静かに聞いた。
「確認だが」
「何?」
「この食料備蓄量は間違いではないな?」
「無いわよ」
即答。
「米も含めて?」
「含めて」
「……」
監督官は、天井を見る。
副官も黙る。
その時、私は苦笑した。
「またその顔」
「仕方ないだろう」
監督官も苦笑する。
「他領地の報告を見た後だと、どうしてもな」
その言葉に、部屋は少し静かになった。
つまり他と比べても。
やはり地下都市は異常なのだ。
備蓄。通信。輸送。全部。
その時、監督官は資料を閉じた。
そして、小さく呟く。
「王都が見たら驚くだろうな」
「そう?」
「間違いなく」
即答だった。
窓の外には、貨物列車がゆっくりと走っていく。
北では兵が集まり始めている。
王都では各領地の状況確認が始まった。
そして地下都市では、いつも通り。
備えを続けている。
戦争を望まない。だから準備する。
その考えだけは、何も変わらなかった。
その日。
中央からの正式通達により――
王国内の全領地で、初めて本格的な戦時状況確認が始まろうとしていた。




