白い穀物
昼の行政区画食堂。
「――こちらです」
監督官アルヴェルトは案内されながら席へ着いた。
周囲には、文官、技師、通信士。
皆、普通に昼食中。特別な歓迎会ではない。
いつもの昼食。
その時、目の前へ木盆が置かれる。
「……」
アルヴェルトは視線を落とした。
白い。真っ白。山の様に盛られている。
「これが?」
「そう」
まきは頷く。
「米」
監督官、数秒。見つめる。
「白いな」
「白いわね」
「……」
当たり前の返答だった。
周囲から少し笑いが漏れる。
その時、監督官は木匙で少し掬う。
そして、口へ運んだ。
「……」
静か。
会議室でも。視察場でもない。
食堂なのに。妙に静か。
皆、見ている。
「どう?」
まきが聞く。
「……」
監督官は、もう一口、更に一口。
そして、真面目な顔で答えた。
「味が薄い」
「そうね」
即答。
「だが」
監督官は続ける。
「嫌な味ではない」
「うん」
「むしろ食べやすい」
周囲は、少し安心。
その時、整備文官が笑う。
「初めて食べる人は大体そう言います」
「そうなのか」
「はい」
その時、監督官は再び米を見る。
派手ではない。豪華でもない。
でも、不思議と食べられる。
その時、まきが聞く。
「どう思う?」
監督官は、少し考える。
そして答えた。
「備蓄向きだな」
「――」
周囲は、少し止まる。
その後、笑う。
「そこに行くのね」
「当然だ」
監督官は真顔。
「長期保存、大量生産、輸送可能、調理も簡単」
そして茶碗を見ながら言う。
「なるほど」
「二年分備蓄する理由も解る」
その時、通信文官が資料を持って現れる。
「監督官殿」
「何だ?」
「実は」
文官は、少し困った顔。
「備蓄量より管理量の方が大変です」
「……?」
監督官。
首を傾げる。
その時、新しい資料が開かれる。
倉庫の在庫。入出庫。保存状態。
更新時期。品質確認。輸送計画。
「……」
監督官。
無言で資料を一枚、二枚、三枚。
その時、まきが笑う。
「どう?」
「……」
監督官は、真顔。
「米より恐ろしい物を見た」
「何?」
「管理台帳だ」
食堂は、爆笑。
その頃。
遠く北方では、領地軍の招集が続いていた。
物価も上がり始めている。
だが、地下都市では違った。
人々は食べ。働き。備える。騒がず。慌てず。
一日を積み重ねている。
その時、監督官は静かに米を口へ運ぶ。
派手さは無い。
こういう物が、こういう日常が、戦争の時代に最も価値を持つのかもしれない。
そう思い始めていた。
その日。
中央監督官アルヴェルトは――
初めて米を食べ。
そして米そのものよりも、それを支える膨大な管理体制に驚かされる事になった。
文明とは、優れた物を作る事だけではない。
それを絶やさず。必要な時に届け続ける事。
その仕組みこそが、本当の意味での力なのだから。




