表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生エンジニア、隣国の友人と産業革命を始めます  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/128

ゆき

「お嬢様!輸入された魔石と共に、商人が文を持ってきました!」


廊下を駆ける足音と共に、侍女が息を切らして飛び込んできた。


文。


私は一瞬、呼吸を止める。


「……文?まさか、返事が来たの?」


「はい!どうぞ!」


封筒を受け取る。


商業文書としては、至って普通の体裁。

表向きは。


私は慎重に封を切った。


中身は――無難な返信。

技術交流に関心がある。

将来的な交易の可能性を歓迎する。

丁寧で、当たり障りのない文章。


……やはり、慎重ね。


そう思ったその時、封筒の底にもう一枚。

薄く折られた紙。私はそれを広げる。


そこには日本語で他の誰にも読めない、あの文字。


私の名前はゆき。32歳、女性。

前世はとある会社でエンジニア職をしていたわ。

この世界に転生して5年。

今の所、のんびり内政をしている。

いつの機会かお会いしましょう。


え。


「……ゆきちゃん?」


思わず声が漏れた。


文官が怪訝そうにこちらを見るが、私は構わない。


ゆきちゃん。同期。飲み会帰り。

あの脱線事故。貴女も、この世界に?


しかも隣の国の領地で?

こんな事、あるの?


胸が熱くなる。安堵。驚き。混乱。

だが同時に、冷静な思考も浮かぶ。

ゆきちゃんも、相変わらず大胆ね。

日本語で直接書いてくるなんて。


一応、敵国同士。


……いや。その歴史を知らない可能性もある。


南の国が分断された事。

今の微妙な立場。

彼女がどの程度把握しているかは不明。


そして文は、時間差がある。


こちらから出して、届くまで数日。

返事が来るまで、さらに数日。

このやり取りでは遅い。遅すぎる。


私は紙を握りしめた。


うーん……。


いや、待てよ。無いなら、作れば良い。


通信手段。無線機。

魔石はエネルギー源として使える。

水車発電もある。

電気的概念は再現可能。

距離は不明だが。


馬車で往復200キロも無いはず。


直線ならもっと短い。

地形による減衰はあるが、理論上は可能。

私は机に向かった。


「……作れるかしら」


文官が不思議そうに見る。


「何をでございますか?」


「いえ、独り言よ」


私は頭の中で構造を組み立てる。


送信機。受信機。変調。アンテナ。電源。

魔石を用いた発振機構。

前世の記憶を掘り起こす。


九四式二号丙無線機。


軍用。中距離通信。構造は比較的単純。

真空管の代替は?

魔石振動子で代用出来るか?


周波数安定性は未知。


理論上、出来る。


私は紙に触れた。


設計。筐体。回路図。アンテナ構造。

魔石駆動発振部。


二台。


一台はこちら。もう一台は、向こうへ渡す。


ゆきちゃんなら。

エンジニアなら。

原理を理解する。


改良も出来るかもしれない。

いや。流石に道具も部品も無いはず。

ならばこちらで、ある程度完成形を用意する。


私は小さく笑った。

国境を越えるのは、馬車だけではない。

電波も、越えられる。もし成功すれば。


私達は、この世界で初めての“即時通信”を手にする。


商人も。王も。知らないところで。

私はゆきちゃんの文を、もう一度見た。

のんびり内政をしている。


……嘘つき。絶対、何かやってるでしょ。


胸が高鳴る。再会は、まだ先かもしれない。

通信なら、今すぐ始められる。

私は静かに呟いた。


「待ってなさいよ、ゆきちゃん」


国境を越えるのは今度は、光ではなく――


声だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ