壁の向こうの声
「――中央監督官一行、到着します」
行政区画。
朝の空気は、静か。
でもかなり張ってる。
「……来たわねぇ」
私は窓から外を見る。
新設宿舎は、既に完成。豆腐建物だけど見た目は普通。かなり普通。
でも壁内部の換気口、照明裏、全部。
「聞こえる」
その時、通信文官は小声。
「盗聴系統、全接続完了」
「良し」
「記録室も準備済です」
「了解」
完全に情報戦が始まる。
その頃――入口には、馬車列が到着。
中央紋章に護衛。
そして監督官。
「……」
先頭には、意外と若い三十代前半程度。
鋭い目で無駄少ない。
「中央監督官、アルヴェルト・グランツです」
「管理責任者、まきです」
互いに視線合わせる。探り合い。
その時、後方から副官らしき女性。
周囲を見て少し驚いてる。
「……本当に発展していますね」
「開拓の成果です」
私は普通に返す。
その後、宿舎案内。
「寝泊まり区画はこちら会議室、簡易台所、倉庫も準備しております」
「……」
監督官は静かに見る。かなり細かく。
「随分丁寧ですね」
「中央との協調は重要ですので」
「……」
空気は静かでも互いに絶対信用してない。
その時、監督官が窓の外を見る。
物見櫓?鉄道?市場?人の流れ。
「……地方には見えない」
小さく呟く。
私は笑わないし、否定もしない。
その頃――地下通信管理室。
壁内部盗聴。
起動。
ヴゥ……
「宿舎一号室、接続確認」
「会議室音声良好」
「食堂側も拾えてます」
通信技師達は、かなり真剣。
その時、最初の音声が入る。
『……監督官殿』
『何だ』
『想像以上です』
『……』
『正直、“旧南国の田舎”とは別物かと』
「……」
通信室は、静か。皆で聞いてる。
その時、監督官が低い声。
『だから中央が警戒している』
『――』
『設備』
『鉄道』
『統制』
『住民支持』
『全部揃い過ぎている』
「……」
かなり本音が出てる。
その時、副官少し迷ってそして小さく言う。
『ですが……住民達の表情は悪くありません』
『……』
『中央直轄地より、余程落ち着いて見えます』
空気が少し止まる。
監督官は黙る。長くその後。
低く呟く。
『だから厄介なんだ』
「……」
通信室は完全に静か。
皆、理解した。
中央は恐れてる。武力だけじゃない。
「住民支持されてる事」
そこかなり大きい。
その頃――
宿舎に居る監督官は、窓から町を見る。
市場。学校。診療所。
笑う子供達とその景色。
静か平和でもその奥の地下。防衛体制など全部。隠れてる?
「……」
監督官は、小さく呟く。
『本当に、どこまで隠している』
風が吹く。
壁、一枚隔てた向こう側。
その会話を全部。
私達へ届いていた。
その日。
地下都市では――
中央監督官との共同生活が始まる一方、“壁の向こう側の本音”を巡る静かな情報戦が本格的に始まっていた。
文明とは、ただ強い力を持つ事じゃない。
相手が何を恐れ何を疑い。
どこまで理解しているのか。
その“見えない本音”を読み解く事もまた――不安定な時代を生き抜く為に必要な力になっていくのだから。




