境界線の向こう側
「……さて」
収穫祭は、無事終了。
市場は、少し明るさ戻った。
子供達は走り回ってた。
米料理、酒、屋台。かなり良かった。
「概ね成功、かしらね」
私は窓の外を見る。
黄金色だった水田。
今は刈り取りも進み、備蓄倉庫へ運ばれている。
ちゃんと実った!そこが本当に大きい。
でも――問題は……
私は小さく呟く。
北。未だ空気は悪い。
正式警戒令。物流統制。地下工業化。全部、続いてる。
「……」
一度、直接話すか。
数日後――地下都市。極秘会談室。
「おひさ〜」
「久しぶり〜」
ゆきちゃんは少し苦笑。
「本当は、こんな会い方じゃない方が良かったんだけどね」
「そうね」
私は静かに頷く。
「雲行き、怪しくなってきたし」
空気は少し重い。
「北の国境問題ね……」
「それ」
一拍。
「しかも私達、別の国とは言え“旧南国”だし」
「……」
ゆきちゃんは静かに頷く。
「この辺りって、両国に対して何とも言えない根深い物があるのよね」
「そう」
重要。単純な国境問題、じゃない。
昔、南国は滅びた。引き裂かれた。無理やり。
線を引かれた。つまり。
「感情が残ってる」
「しかも北方面って、元々仲悪い地域だし」
「そうね」
ゆきちゃんは少し疲れた顔。
「こればっかりは、“空気感”と言うか……」
「言葉でハッキリ説明出来ない根深さがある」
「……」
私は静かに頷く。本当にそう。
そしてもっと厄介なのは――
「上の方が、その辺ちゃんと理解してるとは限らない」
「……」
ゆきちゃんは苦笑。
「それね」
「関係ない場所でも、火が立つ可能性ある」
「そこなのよ……」
重い。
北は燃えた。
↓
国。
動く。
↓
関係ない場所まで緊張。
普通にある。
「私達、極秘で同盟組んでるけど」
ゆきちゃんは静かに言う。
「上からの圧力、どこまで躱せるか」
「……限界あるでしょうね」
私は素直に答える。
しかも。
「昔、降伏した時に旧南国側、領軍を強制解体されてる」
「……」
「残されたのは、“最低限の治安維持組織”だけ」
そこが問題。
「強化し過ぎると?」
ゆきちゃんは確認。
「両国上層部に睨まれる」
「……よねぇ」
空気は静か。
でも。私はそこで少し笑った。
「だから考えたのよ」
「ん?」
「今のルールを、“すり抜ける”」
「……?」
ゆきちゃんは少し身を乗り出す。
「どうやって?」
「準軍事組織化」
「――!」
空気が変わる。
「今の募集制度、あるでしょ?」
「毎年の?」
「そう」
私は地図を広げる。
各村。町。街。全部に繋がってる。
「教官を派遣する」
「各地で訓練」
「募集希望者へ教育」
「……」
ゆきちゃんは少し考える。
「んー……」
「州兵みたいな?」
「そそ」
私は頷く。
「州は無いから、“村兵”かな」
「……」
「もし何かあれば?」
「各村兵を招集、一気に組織化」
「……なるほど」
ゆきちゃんは完全に理解した顔。
重要なのは、ここ。
「あくまで表向きは“治安維持”」
「……!」
「しかも、ルール違反じゃない」
軍とは本来。学校と訓練所。
そういう場所で教育。各領主の領力に合わせて維持。つまり。
「制度上は問題無し」
「……抜け道ね」
「そう」
完全軍拡は、危険で睨まれる。でも。
「治安維持訓練」
なら通る。その時は、ゆきちゃんは少し笑う。
「相変わらず、そういう所回るわねぇ」
「生き残る為だから」
重要。今、欲しいのは戦争じゃない。
「守れる力」
そこが必要。
その頃――
北方国境地帯では。
未だ小競り合いが断続的に続き、緊張は静かに広がり続けていた。
そして。その火種は少しずつ、旧南国地域へも影を落とし始めていた。
その日。
地下都市では――
極秘同盟を結ぶ二人によって、“治安維持”の名を借りた新たな地域防衛構想が静かに動き始めていた。
文明とは、ただ発展する事じゃない。
理不尽な力に飲み込まれない為、自分達を守る仕組みを作る事。
その知恵と備えもまた――不安定な時代を生き抜く為に必要な力になっていくのだから。




