静かな締め付け
「――まき様」
行政区画。
朝の机の上。北方警戒令。備蓄確認。
輸送遅延。最近は完全に。
“有事前提”の書類が増えてきた。
「何?」
整備文官は、少し困った顔。
「鉄材在庫についてです」
「……」
私は資料を見る。
鉄材。鋼材。加工材。どれも消費量が増えてる。
農地警備隊。緊急車両。水路補修。診療所。
学校。全部に鉄を使う。
しかも今。
「戦争の気配」
つまり鉄は、もっと重要になる。
「……さて」
私は椅子へ深く座る。
「ここからの出荷品」
一拍。
「ゆっくり絞るか」
空気が少し止まる。
「……出荷制限ですか?」
「そう」
重要。
地下都市で今。かなり鉄を作ってる。
大型溶鉱炉。山中工場。商人達。当然。
知ってる。
「この辺り出入りしてる商人、皆知ってるわよね」
「大型溶鉱炉が山にある事を」
「……はい」
整備文官は、静かに頷く。
「そして」
私は資料を閉じる。
「ここで作られた鉄が、何処かへ流れてる事も」
「武器にも……」
「ええ」
空気が重い。今までは売れれば良かった。
でも状況が変わった。
もし本当に戦争始まるなら。
「自分達が生き残る方が優先」
当然。
「まき様」
若手文官は、少し不安そう。
「急停止すると怪しまれませんか?」
「だから“ゆっくり”」
重要なのはそこ。
「事故、設備点検、品質調整、理由はいくらでも作れる」
「……」
「なるほど」
そう。一気には危険。
でも少しずつなら市場側も。
“そういう物か”になる。
「あと」
私は普通に続ける。
「値段も上げる」
「――!」
周囲は、少しざわつく。
「鉄材価格、ですか」
「そう」
供給減る。
↓
価格上がる。
自然。つまり。
「こちら主導で調整」
「了解!!」
その時、商業文官は、少し真面目。
「かなりの収入源ですが……」
「解ってる」
痛い。鉄。地下都市の大収入。でも。
「今は蓄える時期」
「……」
誰も反論しない。
北が動いてる。皆、理解してる。
その時、お母様は静かに言う。
「戦争前って、こうやって静かに市場が変わるのよ」
「……」
「武器を持つ前に、まず資源が消える」
重い。その通り今、まだ戦場が遠い。
でも鉄、薬かわ少しずつ流れ変わり始めてる。
「文官さん」
「はい!!」
「大型溶鉱炉、保守点検名目で出力調整」
「鉄材出荷制限開始」
「内部備蓄優先」
「了解!!」
更に。
「武器用鋼材」
「農地警備隊優先」
「緊急車両生産優先」
「了解!!」
その頃。
商人達の間でも――
「最近、鉄の流れ悪くないか?」
「山側、“設備事故”らしいぞ」
「値段も上がってる」
そんな噂が、少しずつ広がり始めていた。
でもまだ誰もそれが“有事への静かな準備”だとは気付いていない。
その日。
地下都市では――
北方情勢悪化に備え、鉄材出荷制限と内部備蓄強化が静かに始まっていた。
文明とは、ただ作り続ける事じゃない。
必要な時に備え。資源を守り。
生き残る為に優先順位を変える事。
その冷静な判断もまた――国を支える、大切な力になっていくのだから。




