正式通達
「――まき様」
行政区画。
朝は最近、空気が妙に静かだった。
市場は動いてる。学校もある。診療所も稼働。
でも皆、何となく北の話を知っている。
「何?」
若手文官は、少し緊張した顔。
「中央より、正式通達です」
「……」
来た。私は静かに受け取る。
封蝋、正式印。つまり。
「領地通達」
数秒後。私は書面を読む。
そして静かに息を吐いた。
「……警戒令」
空気。
止まる。
「北方国境地帯における領軍衝突確認」
「一部地域にて戦闘継続」
「各領地へ備蓄確認及び輸送路再点検を命ずる」
「……」
若手文官は青ざめる。
「本当に……」
「ええ」
私は静かに頷く。
「商人の話、正しかった」
しかも想像より少し重い。
「国軍出動は?」
「まだ」
私は書類を読む。
「でも、“状況次第”って書いてある」
つまり悪化すれば動く。
その時、別文官が急いで入って来る。
「北方面物流、一部遅延発生!!」
「鉄材輸送にも影響が!」
「……」
早いもう出始めてる。
戦争が始まる前から物流が揺れる。
「まき様……」
整備文官は不安そう。
「くろがね量産計画、影響出ますか?」
「可能性ある」
全部。戦時、優先順位。変わる。つまり。
「今まで通りじゃなくなる」
「……」
重い。その時、お母様は静かに言う。
「始まる時は、こういうものよ」
「……」
「最初は、小さい摩擦」
「でも」
一拍。
「国家が正式に動き始めると、一気に空気が変わる」
「……」
私は窓の外を見る。
市場の笑い声の子供。普通の景色。
でもその裏側。もう国は動いてる。
「文官さん」
「はい!!」
私は即座に切り替える。
「穀物備蓄、第二段階へ」
「医療品保存強化」
「緊急車両量産優先」
「水路及び橋梁再点検」
「――了解!!」
更に。
「避難経路整理」
「集落別人口確認」
「農地警備隊、警戒強化」
「了解!!」
誰かが小さく呟く。
「……戦争になるんでしょうか」
「まだ解らない」
私は静かに言う。
本当にまだ解らない。
でも。
「備えない理由にはならない」
重要。
その時、また別文官が追加資料を持って来る。
「ゆき様側からも追加連絡です!!」
「内容は?」
「備蓄共有継続」
「あと」
一拍。
「工業区画、防衛体制移行準備開始との事」
「……」
私は少し黙る。
向こうも動いてる。本当に。
“有事前段階”。
その頃。
北方国境地帯では――
小競り合いが断続的に続き、各地で緊張が高まり始めていた。
まだ全面戦争ではない。
だが。
誰も、“絶対に戦争にならない”とは言えなくなっていた。
その日。
地下都市では――
中央からの正式警戒令を受け、“平時から有事への移行準備”が静かに始まっていた。
文明とは、ただ発展する事じゃない。
積み上げた日常が壊れる可能性を理解し、それでも人々の暮らしを守ろうと動く事。
その冷静な備えこそが――本当に強い国を作っていくのだから。




