半分にされた国
うーん。
さくら印の開発者と接触したいわね。
同郷の可能性でしかも隣領。
放っておくには近すぎる。
私は文官に視線を向けた。
「うちの国と隣の国って、仲良いの?」
文官の筆が止まる。
「……いや、まあ、その……」
歯切れが悪い。
「何よ。仲悪いの?」
「いえ。そういう訳では……お嬢様は昔話を聞かれた事は無いのですね?」
「昔話?」
「はい。それは……」
彼は一度深く息を吐いた。
「お嬢様の曾お祖父様の時代の話です」
私は椅子に座り直す。
話は、思ったより重かった。
かつて、この大陸には三つの国があった。
東の国。
西の国。
そして南の国。
東と西は長年対立していた。
資源。交易路。覇権。
小競り合いは絶えなかった。
南の国は、中立を守ろうとした。
両国の仲裁に入り、和平を提案し、均衡を保とうとした。
だがその姿勢が、両国には気に入らなかった。
「どちらにも付かぬ者は、敵と同じ」
そう判断されたらしい。
そして東と西は一時的に結託した。
南の国へ攻め込む為に。
両面からの挟撃。
流石に、二つの大国を相手にするのは無理があった。
最後まで勇敢に戦ったが敗北。南の国は滅びた。
東と西は、南を半分ずつ分け合った。
その土地。その民。その貴族。
全て、支配下に置かれた。
文官は静かに言う。
「我が家は、旧南の有力家系の一つでございます」
なるほど。
だから国境が近い。
だから“南の奴ら”と呼ばれる。
「王都貴族から見れば、我々は“元中立国の血筋”」
昔よりはマシになったが完全な融和ではない。
見えない線が、今も残っている。
私は背もたれに体を預けた。
つまり隣国も、元は同じ南の国。
分断された同胞。
歴史の都合で、二つに割られた。
そして今。
私は富士印。
隣には、さくら印。
偶然とは思えない。
「隣国との関係は?」
「表向きは安定しております。ただ……」
「ただ?」
「国境付近では小競り合いが稀に」
やはり。
油の大量輸出。新産業。軍備拡張。
全てが、一本の線で繋がりかけている。
私は窓の外を見る。
遠くの平野。その向こうに、かつて一つだった土地。
全く。何処の世界へ行っても大国ってやつは都合が悪ければ、潰す。
分ける。支配する。前世も。この世界も。
本質は変わらない。
面白い。
もし隣国のさくら印の開発者が同じ“南の血筋”の土地にいる転生者なら。
歴史の分断を越える可能性がある。
あるいは再び戦火を呼ぶかもしれない。
私は小さく笑った。
接触は、慎重に歴史は、甘くない。
そして私はもう、ただの伯爵令嬢ではない。




