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転生エンジニア、隣国の友人と産業革命を始めます  作者:


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油の行方

隣の国の領地が、油を大量に購入している。


どうにも引っ掛かる。

油は、灯り。保存。潤滑。

それだけなら理解出来る。

だが、“大量”という言葉が気になる。


備蓄?戦?あるいは――

私は机の上の資料を閉じた。


「文官さん」


呼びかけると、すぐに返事が来る。


「はい、お嬢様」


「その油が、最終的に何に使われているか調べられる?」


文官は一瞬考えた。


「直接的な用途までは難しいかと存じますが……商人に情報収集させれば、ある程度は可能かと」


「なら、そう指示して」


「承知しました」


彼は即座に控えを取り、指示書を書き始める。

私は椅子に深く座った。


油。灯火用だけなら、これほど急激な増加にはならない。


軍需なら?松明。攻城戦。火攻め。補給用灯火。想像が膨らむ。

そして同時に、別の思考が浮かぶ。


……そもそも。


うちの領地は、どれだけの力を持っているのか。


国力ではない。


領地力。そんな言葉は無いかもしれないが私は正確に把握していない。


人口。耕地面積。年間生産量。

税収。兵数。備蓄。輸出入。


私は、知らない。


内政をしているつもりで基礎データを全て把握していない。


それでは、戦略は立てられない。


「文官さん」


再び呼ぶ。


「はい」


「この領地の生産力を、全て知りたい」


彼の筆が止まる。


「……全て、ですか?」


「農作物、家畜、鉱山、工房、魔石流通、税収、支出。輸出入関連も全てよ」


部屋が、少し静かになる。


「そちらも書類を纏めますので、少々お時間を頂きます」


「構わないわ。正確に」


彼は深く一礼した。


私は窓の外を見た遠くに見える畑。

その向こうの森のさらに向こうに国境。


隣国が油を買う。

うちは魔石使用した製品を売る。

物流が動く。金が動く。

それは単なる商売ではない。


力の流れだ。


もし隣国が軍備を増強しているなら。


うちはどうだろう。

兵の数は?

訓練度は?

装備は?

補給能力は?

魔石供給は、軍に回せるか?


私は無意識に腰元へ手をやった。


ポシェットの重み。拳銃。個人の武器。

領地単位での力は、まだ未知数。



数日後、文官が厚い束を持って現れた。


「暫定的な集計です」


私はそれを受け取り、ページをめくる。


人口推計。農作物収量。輸出先一覧。

油の流れ。魔石の回収量。兵の動員可能数。


数字が並ぶ。


私は静かに息を吐いた。

これが、現実。夢でも、希望でもない。

冷たい数値。


これが武器だ。戦うにせよ。守るにせよ。


判断材料は必要。隣国の油。

自領の生産力。


全てが、繋がっている。

私は小さく呟いた。


「……思ったより、余裕は無いわね」


文官が顔を上げる。


「お嬢様?」


私は資料を閉じた。


産業は動き始めた。

戦になれば、消耗は早い。


そして国境は、遠くない。

油の行方は、やがて明らかになるだろう。


その時この領地は、どの立場にいるのか。

私は、数字の重みを初めて実感していた。

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