眠れぬ夜
銃の設計図を、引いてしまった。
まさかとは思った。
だが紙の上には、確かに存在している。
九四式拳銃。
この世界には、本来無いはずの構造。
私はその夜、ほとんど眠れなかった。
目を閉じれば、昼間の光景が浮かぶ。
負傷した冒険者。
血の匂い。
魔狼の牙。
これが作れれば恐らく、怪我人は減る。
魔物への対応は、劇的に変わる。
遠距離から、安全に力の差を埋められる。
それは理解している。
デメリットは?
圧倒的だ。人も殺せる。貴族も。
平民も。王も。
私は天井を見つめた。
誰でも持てない様にする?
許可制?
侯爵家のみ?
……無理だ。
物は広がり噂は広がる。
奪われる。盗まれる。
持てる人でも、魔が刺す事はある。
盗まれたら?
いや。全く扱った事が無い人間なら、操作も難しい。
扱える人間が盗んだら?
答えが出ない。私は布団から起き上がった。
暗闇の中。
懐中電灯を点ける。
白い光が、部屋を照らすこの光は、生活を変えた。
銃は?
世界を壊すかもしれない。
それでもいざという時の為に試作品だけでも造るべきか?
図面が出来たからといって上手くいくとは限らない。
加工精度。
火薬。
弾丸。
失敗すれば、暴発。
死ぬのは、私かもしれないけどモヤモヤするより試作してみるか?
私は机に向かった。
必要なものを整理する。
高炭素鋼。
撃針用鋼材。
バネ。
真鍮。
そして――
火薬。
分析。
この世界にも存在するし量は少ないが、自領の鉱山から採れる。
表向きの用途は花火や採掘用。
私は新たな設計図を引いた。
火薬配合比。
弾丸寸法。
薬莢構造。
手工業でも再現可能なレベルへ簡略化まあ元々手工業製品。
安全重視。
元からの暴発防止を優先に補正がかかっている。設計図が、静かに完成する。
胸の奥が、ざわつく。
これは一線を越える行為だしまだ量産ではない。
試作。検証。最悪、封印する。
選択肢を持つだけ。
私は紙を重ね、深く息を吐いた。
「……作るだけ」
自分に言い聞かせる。
翌日。
私は信頼出来る鍛冶職人を呼ぶかどうかで、また迷った。
事情を説明すれば、噂になる。
説明しなければ、怪しまれる。
結局自分で出来る部分は、自分でやる事にした。
小型旋盤代わりの治具を設計。
簡易ドリル機構。
魔石動力補助。
小さな実験室を、工房の奥に作る。
私は、冷たい金属片を手に取った。
これがどんな未来を呼ぶのか。
まだ、分からないが一つだけ確かだ。
私はもう知らなかった頃には戻れない。




