血と魔石
「安全確認済みです」
護衛の報告を受け、私は工房の外へ出た。
空気が、違う。
鉄の匂いに焦げた臭い。
そして――血の匂い。
少し離れた広場に、魔物の死骸が横たわっていた。
狼に似ているが、明らかに違う。
牙は長く、皮膚は硬そうな鱗混じり。
分析。
魔狼(群体型)。
個体数:推定十二。
討伐済:全数。
……十二。
これが“群れ”思った以上に、多い。
冒険者達が集まっている。
武器を拭き、息を整え、互いに軽口を叩いている。
全員が無傷ではない。
担架に運ばれる者がいる。
肩から血を流す男。
足を押さえて呻く女。
私は無意識に歩み寄っていた。
「お嬢様!」
護衛が制止するが止まらなかった。
近くで、魔狼の死骸を見下ろす。
牙の付け根。
筋肉の付き方。
魔石位置。
分析。
魔石保有率:高。
品質:中~上。
「……大量ね」
冒険者の一人が振り返る。
「今日は当たりだな!」
笑うが、その顔には疲労が滲んでいる。
私はしゃがみ込み、傷を負った冒険者を見る。血が止まりきっていない。
「治癒魔法は?」
「使ったが、数が多くてな」
群れ戦。一対一ではない。
同時多方向。なるほど。
私は小さく頷いた。
これが、実戦。
文官が低い声で言う。
「魔石は相当数回収出来るでしょう」
その言葉に、私は反応する。
確かに今日の討伐で、魔石は大量に手に入る。
充電済み資源。
市場へ流れれば、価格は一時的に下がる?
しかしその裏にあるのは、血だ。
私は立ち上がった。
「回収は、どこで行うの?」
「市場裏の解体場です」
私は即決した。
「見に行くわ」
護衛が渋い顔をするが今は止めない。
解体場。
魔物の体が手際よく分解される。
牙。皮。肉。
そして胸部から取り出される、淡く光る石。
魔石。一つ。二つ。三つ。想像以上の量だ。
木箱に次々と入れられていく。
商人が目を輝かせている。
「これは当面困りませんな!」
だが私は、違う計算をしていた。
群れが出るという事は発生頻度が上がっている可能性とか?
討伐回数増加。冒険者の負傷率上昇。
供給増。だが、持続可能か?
もし群れが更に増えれば被害は拡大する。
内政どころではなくなる。
私は遠くを見る。
血の付いた石畳。
疲労した冒険者。
泣いている子供。
光の産業。
魔石ビジネス。
その裏にある現実に胸の奥が、重くなる。
目を逸らさない。
魔物は脅威でも同時に資源。
そして戦いは、日常。
私は魔石の詰まった箱を見つめた。
大量にゲット。
確かに、資源は増えた。
今日、流れた血もまた、この世界の“コスト”だ。私は静かに呟いた。
「もっと効率化出来るはず」
討伐。
治療。
回収。
全て。
仕組みに出来る。
そうしなければこの領地は、いつか削り取られる。
私は初めて戦いの現場を、真正面から見た。
そして理解した。




