南からの影
「……妙だな」
低く呟いたのは、帝都の一室。
重厚な机。積み上げられた書類。
その中の一枚に、男は目を止めていた。
「また、か」
報告書。内容は簡素。
「南方からの流入品、増加」
男は紙を置く。指で机を軽く叩く。
トントン。
「数が多いだけなら、まだいい」
だが。
「質が高い」
それが問題だった。そこへ。
「失礼します」
扉が開き、部下が一人。
「例の件、追加報告です」
「読め」
差し出された書類を受け取り、目を通す。
「……鍋?」
思わず眉をひそめる。
「生活用品まで、か」
部下が頷く。
「はい。金属製品全般において」
一拍。
「非常に高品質との評価です」
男は黙り、そして。
「価格は?」
「それが……」
部下が言い淀む。
「安価です」
「……は?」
男の手が止まる。
「高品質で、安い?」
「はい」
あり得ない。どちらかなら分かる。だが。
「両立している?」
部下は続ける。
「供給も安定しています」
「……」
沈黙。
男は椅子に深く腰掛けた。
「妙だな」
それしか言葉が出ない。
その時。別の声が割り込む。
「それだけではありません」
奥の影から一人の男が現れる。
「武具も、です」
空気が変わる。
「……武具だと?」
男は視線を向ける。影の男は静かに言った。
「正規の流通ではありませんが、性能が高い物が出回り始めています」
机の上の空気が重くなる。
「……誰だ」
誰が作っている。どこで。何の目的で。
男はゆっくりと目を閉じる。
そして。
「南、か」
断片が繋がる。
商人の報告の流通量、品質。
そして――「武具」
男は静かに言った。
「偶然ではないな」
部屋の空気が冷える。
部下が緊張した声で問う。
「……如何致しますか」
男は迷わなかった。
「調べろ」
短く。だが強く。
「徹底的に」
部下が即座に応じる。
「はっ!」
男は最後に呟いた。
「何かが動いている」
それが何かは、まだ分からない。
だが――
「放置するには、大きすぎる」
南。その方向を見据えながら。
男は静かに言った。
「面倒な事にならなければいいがな……」
その言葉とは裏腹に。既に。
「手遅れに近い」
そんな予感が、部屋の中に漂っていた。




