見落としていた需要
「……不味かったわね」
私は机の上に積まれた注文書を見ながら、小さく呟いた。
鍋やらフライパン。細かい日用品。
そして――膨大な数量。
「これは……」
完全に読み違えた。私は椅子にもたれる。
「防御に全振りしすぎたわね」
戦闘が始まり、武器が必要になり、そして防衛に力を入れた。
あの一件以降、優先順位は明確だった。
間違いではない。
「偏った」
その結果。
「民需品は後回し」
ここで使う最低限物だけ。それだけ。外への供給は――ほぼゼロ。私は軽く額を押さえる。
「……そりゃ溜まるわよね」
欲しい人間はいるが、流通していない。
なら。
「注文が溜まる」
当然の結果。私はゆっくりと息を吐いた。
「見落としてたわ」
武器だけじゃない。生活。
そこもまた――重要な需要。
私は注文書を手に取る。
「……これ全部」
放置はできない。むしろ。
「早く対応しないと不味い」
信用と機会。どちらも逃す。
私はすぐに姿勢を正す。
「準備状況は?」
文官が答える。
「ライン拡張、進行中です」
私は頷く。
「いいわ」
そして続ける。
「準備出来次第、一気に行くわよ」
文官が力強く答える。
「承知しました」
私は小さく笑った。
「大量生産ね」
溜まっている分。一気に吐き出す。市場に流す。
「遅れは取り戻す」
私は窓の外を見る。動き続ける都市。
「……やる事増えたわね」
嫌ではない。むしろ。
「いい問題」
需要がある。それだけで価値がある。
私は軽く肩を回した。
「よし」
地下都市は今、偏っていた生産を修正しながら――“本当の意味での発展”へと進み始めていた。




